政府の情報システム開発を担えるサイバー幕僚監部が必要だ

(4)防衛省を機能強化せよ

 最後に防衛省の機能強化を提言したい。これは緊急事態に対応するための、保安省設置と並ぶリダンダンシー政策と位置付けることができる。防衛省自衛隊は、本質的には国防のための組織であり、緊急事態に対して常に役割が求められるわけではない。しかしこれまで議論してきたような広域的な緊急事態においては、防衛省自衛隊の役割も広範囲に求められることになる。

 まず緊急事態においては即応的な医療供給が求められることになる。これに備えるため、平時より自衛隊病院の病床を十分に確保しておくべきであり、そのための増床を行うべきである。また、現在厚生労働省が所管する国立病院機構病院は、旧陸軍病院や旧海軍病院であったものもあり、増床にあたってはそれらの病院を緊急事態により効果的に対応できるよう、自衛隊病院化することも検討すべきである。また自衛隊病院の増床にあたっては、そのための医療人材も不可欠である。そのため防衛医科大学校の定員を倍増させるべきだ。

 次にCBRN事態をはじめとする緊急事態に備えた分析、研究体制の強化も必要である。現在、防衛省自衛隊の研究組織は、戦史や安全保障政策を研究する防衛研究所と防衛医科大学校に併設された防衛医学研究センターが存在しているが、緊急事態に備えた分析、研究体制としては極めて貧弱であるといわざるを得ない。両機関を統合し、防衛科学研究所として発展させたうえで、防衛情報の分析、研究を行う防衛情報科学研究センターと防衛に関わる医療の分析、研究を行う防衛医学研究センターを付置する体制に刷新強化すべきである。さらに防衛医学研究センターには附属CBRN事態研究センターを設置し、CBRN事態対応研究についても十分な資源を投入すべきである。

 さらに、今次のCOVID-19対応では情報システムの不備も発生している。接触確認アプリCOCOAや大規模接種会場の予約システム等で課題が発生している。一義的にはシステム開発を行った事業者の問題であるが、確実に機能するシステム開発を発注するためには、高いレベルの仕様書が不可欠である。すなわち、事業者に発注するとしても自前で開発できるレベルの知見を有していることが望ましい。アメリカには国防総省に国防情報システム局が存在されており、サイバー軍と共にメリーランド州フォート・ジョージ・ミード基地に設置されている。国防情報システム局はホワイトハウスの情報システム運営も担っているとされる。我が国においても、サイバー防衛隊が編成される予定となっているが、これをさらに強化し、サイバー防衛隊の監督と共に、緊急時に政府情報システム開発等も担うサイバー幕僚監部を設置すべきであろう。