官邸主導のパンデミック対応を実現する4つの提言

 ではパンデミックといった危機事態に直面した際、どのような組織体制で対応すべきなのだろうか。以下に示す4つの具体的な体制を提言したい。

・内閣官房国民危機対策局を設置せよ
・緊急事態新法を制定せよ
・保安省(日本版国土安全保障省)を設置せよ
・防衛省を機能強化せよ

(1)内閣官房国民危機対策局を設置せよ

 まず内閣官房に国民危機対策局を設置すべきである。パンデミックが猛威を振るうことによる影響、損害は多方面にわたる。COVID-19の影響は、国民生活ほとんど全ての面にあるといってよい。このような状況に対しては、全省庁が対応を迫られ、政策を総動員しなければならない。厚生労働省だけで進められる課題ではないのだ。すなわち、全省庁の要である内閣官房が司令塔機能を果たさなければならない。

 現在、内閣官房には内閣危機管理監が配置されている。しかし内閣危機管理監は極めて小さな部局であり、COVID-19のような大規模なパンデミックに対して、その機能を発揮したとは言い難い。そのため「厚生ムラ」に主導権を奪われたといっても良い。

 そこで、内閣危機管理監を廃止し、新たに国民危機対策局を設置すべきである。また内閣官房の各部局は各省からの出向者で運営されており、出向者は出向元を向いて仕事をすることもしばしばである。国民危機対策局を設置したとしても、パンデミック時に厚生労働省からの出向職員が中心となって運営されてしまえば元も子もない。そこで、国家安全保障局、国民危機対策局、内閣情報局(局へ格上げ)、内閣広報局(局へ格上げ)の4局を定員化し、内閣官房で採用し所属する人材を配置すべきである。また緊急時において情報収集及び情報発信は極めて重要である。そのため、現在の情報調査室と広報室の局への格上げを検討すべきであろう。

 また、今回のCOVID-19対応では、科学的知見の発信の在り方についても課題が指摘されている。専門家はあくまでもその専門領域において高度な知見を有する。一方で、総理をはじめとした政策決定者は、総合的な判断をしなければならない。特に今次のCOVID-19は多くの領域に損害を及ぼしており、感染症医学領域における局所的最適解を採用するわけにはいかない、つまり感染症医学領域の知見だけでは決定できない場合もある。

 さらに総理をはじめとした政治家は選挙という民主主義プロセスを経ている一方で、専門家はそのような責任もない。イタリアでは地震予知に失敗したとして地震学者に刑事責任を問おうとする動きはあったが、我が国ではそのようなことはまずない。

 そうした中で、総理による政治的総合的判断とは異なる専門的判断が、政府分科会長から発信されることは、いたずらに議論の混乱を招くだけであろう。尾身氏の情報発信に、このような混乱が散見されるのは、尾身氏個人に問題があるというよりも、その立場が曖昧だという原因がある。すなわち、感染症の一専門家としての発信なのか、政府組織の分科会長としての発信なのかが区別されていないためである。

 このような点を解決するために、内閣官房に科学顧問を置き、必要に応じて政府組織の一員たる特別広報官として情報発信事務を担わせる体制とすべきである。もちろん政府の行動は厳しくチェックされるべきであり、専門家による情報発信の自由度は極めて重要である。ただし、ここで議論しているのは、政府による情報発信の在り方である。科学顧問はイギリス等に設置されている例がある。このような制度を参考にするべきだ。