【強靭な医療研究】

 最後に強靭な医療研究体制の構築も必要である。この点についても、ニューノーマル・アプローチとリダンダンシー・アプローチの両面から提案したい。

(3N)総合科学庁(日本版研究・イノベーション総局)を設置せよ

 ニューノーマル・アプローチとして、「総合科学庁」(日本版研究・イノベーション総局)を設置すべきである。今回のCOVID-19に対しては、ワクチン開発や治療薬開発でも残念ながら日本は後れを取っている。執筆時点において、国産ワクチンに承認されたものはない。もちろん、この点のみを取り上げて我が国の医療研究が遅れているということはできない。しかし、我が国の研究支援体制に課題があることも事実である。

 現在、医療研究者に対する公的な研究支援は、文部科学省及び学術振興会が行っている科学研究費助成事業に加えて、厚生労働省及び日本医療研究開発機構による科学研究費助成事業(いわゆる厚労科研)が存在している。特に後者は「選択と集中」との名のもと、特定の領域、研究者に重点的に配分されてきている。政策的な運用ができるというメリットはある反面、そもそも「選択と集中」を行う官僚に、将来有望な領域を判断できているのかという問題があり、またそのような配分を巡って、厚生労働省と医療研究者の間に「ムラ構造」ができてしまう。加えて、感染症を引き起こすウイルスに限っても、人間に感染していないものも含めれば相当数のウイルスの存在が知られており、そのうちどのウイルスが将来人間に感染するか予測のしようもない。すなわち、医療分野に特化した研究費助成制度を持ち、さらにそれを「選択と集中」型で配分するのには限界があるのだ。

 ただし、医療分野に特化した公的研究支援制度は、アメリカにも存在しており(国立衛生研究所による研究支援)、我が国に限ったものではない。一方、欧州委員会では、医療研究についても他の研究領域とともに研究・イノベーション総局に一本化されており、より総合的な研究資金配分が行われている。

 そこで我が国においても、公的研究支援の総合化を図るべきである。具体的には、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局を母体として、文部科学省旧科学技術庁3局及び厚生労働省大臣官房厚生科学課、医政局研究開発振興課を統合し、総合科学庁を内閣府に設置すべきである。

 また、文部科学省、厚生労働省、日本医療研究開発機構がそれぞれ実施している科学研究費助成事業はすべて廃止し、日本学術振興会のもとに統合した上で、総合科学庁所管の下で予算を大幅に拡充すべきである。研究支援官庁と特定の研究者(ないしはその集団)とが資金的に結びつくことは、研究者の自由な研究活動を阻害しかねない。そこで、日本学術会議についても民営化(公益社団法人化)が望ましいであろう。