医療崩壊の元凶は「厚生ムラ」の独占構造

 医療崩壊を経済学的に定義するとすれば、「医療需要が医療供給を上回る」ということである。

 通常の財・サービスであれば、需給の不均衡は価格メカニズムによって調整される。しかし医療サービスは価格メカニズムでは調整されない。特に今回のCOVID-19の診療は、感染症法に基づいた措置で行われるため、基本的に無料である。結果として、需要が供給を上回ると、需要の一部に供給を「割り当て」ることになる。重症度に応じた割り当てをせざるを得ない。

 そこで需給不均衡を解消させるためには、需要を減らす(すなわち感染者数を減らす)か、供給を増やす(すなわちCOVID-19医療を増やす)しかない。前者に対しては、経済活動を制限することで試みられてきた。それでも医療がひっ迫しているので、現在さらなる経済活動の抑制が求められている。一方で、後者はどうだったのか。驚くべきことに、2021年8月23日になって初めて、厚生労働省は感染症法に基づく病床確保要請を行った。それまでは要請すらしていなかったのだ。

 ではなぜ、十分な供給がなされないのであろうか。過少供給となる原因はいくつか知られているが、最大の要因の一つが我が国の医療システムに潜む「厚生ムラ」の独占構造である。それを描いたものが図3である。

 厚生労働省を中心とした「厚生ムラ」なる独占構造によって、医療供給に大きな制約がかかっているのである。医業を独占している医師、検査や分析で独占的権能を有している国立感染症研究所や保健所、研究費配分を受ける医学研究者と厚生労働省との不適切な関係が、「ムラ」を構成しているのである。このような独占構造が、時代変化に対応できない守旧的なシステムを、また緊急事態に対応できない硬直的なシステムを作り上げてしまっているのである。

【図3】「厚生ムラ」のイメージ
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 言うまでもなく、今回のCOVID-19との戦いの最前線に、志ある多くの医師、保健所職員あるいは医学研究者がいることは間違いない。問題は、構造として供給が抑えられるシステムであり、言い換えれば、医療関係者の「志」に頼らざるを得ない仕組みになってしまっていることにある。