(政策コンサルタント:原 英史)
「エネルギー基本計画」の改訂に向け、政府・与党内の調整が佳境に入っている。近日中に閣議決定がなされる見通しだ。
私は昨年秋以来、政府の「再エネ規制改革タスクフォース」(以下「再エネTF」)の委員を務め政府内の議論にも一定程度関わってきたが、本稿では、再エネTFの立場は離れて、私個人の意見を述べたい。
再び「電力市場大混乱」を招く可能性も
まず、結論からいうと、今後の電力需給はとても心配だ。
現時点で公表されている基本計画案では、2030年の電源構成は「再エネ36~38%、原子力20~22%、化石燃料41%」とされる。足して100%だが、実際には足し算が合わなくなる可能性が高い。
理由として、「再エネを倍増(2019年18%→2030年36~38%)なんて非現実的だ」という点がよく指摘される。
だが、私からみると、もっと危ういのが原子力だ。東日本大震災以降、原発再稼働はなかなか進まず、2019年時点では6%だ。2030年までに3倍以上に増やすには、稼働申請の出ている27基を全基フル稼働しなければならない。これは、過去10年の経過を考えれば相当ハードルの高い難題だ。
それにもかかわらず、基本計画の文面では、難題に不退転の決意で取り組もうとの決意はみえない。数値は「20~22%」としているものの、その一方で、「可能な限り原発依存度を低減」とも記載し、また、再稼働推進に際して重要な要素となるはずの「リプレース」には触れようとしない。要するに、与党内に推進派と反対派の双方がいる中で、どちらの顔も立てて、中途半端な妥協の産物を作りあげているようにしかみえない。
結果として何が起きるかといえば、数値が達成できず、100%に満たない事態になりかねない。それで急遽LNGに頼れば、年初のような価格暴騰や需給ひっ迫を引き起こすかもしれない。中途半端な妥協は、結果としてエネルギー安定供給を脅かし、誰にとっても不幸な事態を招こうとしているのでないか。
それでは、どうしたらよいか。私の対案は、足して100%超(例えば110%や120%など)の計画にしてしまうことだ。そうすれば、再エネが思ったほど伸びなくても、あるいは原発の再稼働が一部不調に終わっても、なんとか乗り切れる可能性が高い。逆に、もし全ての電源が順調で合計100%を上回ったときは、余剰分を水素に変えられるようにしたらよい。
参考事例として、サウジアラビアの「NEOM構想」を紹介しておきたい。サウジアラビア政府が紅海沿岸で建設しようとしている巨大な未来都市構想だ。最先端のデジタル化や脱炭素を目指し、エネルギー分野では、電気自動車以外の禁止など電化を徹底し、電源構成は再エネ100%、さらに余った電力で水素を製造して日本などへの輸出を計画している。
石油大国サウジアラビアも今や、脱炭素時代に備えた新たなエネルギー戦略を描きつつある。日本政府も、いつまでも中途半端な妥協を続け、「合計100%が当然」といった旧来の通念に引きずられている場合ではない。