そもそもIEAは、1973年の第1次石油危機を契機に米国のキッシンジャー国務長官(当時)の提唱により、石油危機を再発させないことを目的として1974年に設立された国際機関である。石油危機が勃発する可能性が高い中東産原油の依存度を下げるために、非OPEC諸国の増産を支援するなど世界の原油供給の拡大を後押ししてきた。化石燃料を巡る国際情勢が大きく変わったとはいえ、そのIEAが原油の中東依存度を高める結果を招く内容のレポートを出したことは皮肉以外の何ものではない。

「漁夫の利を得る」OPECプラスの懸念

 とはいえ、漁夫の利を得るとされるOPECプラスも内心穏やかではないようだ。OPECプラスの閣僚会合終了後にロシアのノバク副首相は「IEAが最近発表した報告書のせいで、原油価格は1バレル=200ドルにまで高騰する懸念が生じている」とする異例のコメントを出した。

 IEAは最近まで「原油開発への投資の減少から2020年代初めに深刻な供給不足が生じ、原油価格は急上昇するリスクがある」と警告していたが、今年中に原油関連の新規投資を停止すれば、原油価格が高騰するリスクが高まる。原油市場がタイト化する中で中東地域で地政学リスクが高まる事案が生ずれば、原油価格は200ドル超えはないものの、100ドル超えとなる可能性は十分にある。

 ロシア国営石油会社ロスネフチ幹部が6月5日に「石油の時代はまだ終わらない。大きなポテンシャルがアジア太平洋地域とアフリカにある」と述べたように、原油資源は今後も彼らにとっての生命線である。その原油価格が高騰すれば、石油離れが加速し、国内の政情が不安定化する。彼らの頭に恐怖がよぎっていてもなんら不思議はない。

 経済協力開発機構(OECD)は6月2日「加盟国の4月のインフレ率が2008年以降で最高の水準に達した」ことを明らかにしたが、原油価格までもが高騰することになれば、コロナ禍で生じたバブル景気にとっても大打撃となる。

「石器時代を終わらせたのは青銅器や鉄器などの新しい技術だった。石油も同じ」

 このように指摘したのは、第1次石油危機を引き起こしたアラブ敵対国への禁輸措置を主導したサウジアラビアのヤマ二石油相(当時)である。この「予言」が一気に現実化しつつあるが、石油の時代が静かに幕を閉じるかどうかはわからない。