米メリーランド州にあるコロニアル・パイプラインの石油タンク(写真:ロイター/アフロ)

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格はコロナ禍以前の水準に回復している(1バレル=60ドル台前半)。

 5月に入ってからの最も大きな出来事は、米国最大のパイプライン網が歴史上初めてサイバー攻撃により停止したことである。

 5月7日、米石油パイプライン最大手のコロニアル・パイプライン(本社はジョージア州、ロイヤルダッチシェルなどが出資)は「サイバー攻撃を受けてすべての業務を停止した」とする緊急の発表を行った。

 コロニアルが保有するパイプラインの全長は8850キロメートル、メキシコ湾岸(米南部テキサス州)から北東部(ニューヨーク州など)をつなぐ大動脈である。このパイプラインにより1日当たり約250万バレルの石油製品が輸送されている。東海岸の燃料消費の45%を賄(まかな)う量であり、ガソリンやディーゼル燃料など幅広い用途に使われ、主要空港や米軍施設にも供給されている。

コロニアルを襲ったハッカー集団の手口

 サイバー攻撃が仕掛けられたのは5月6日である。犯行を行ったグループは、ランサムウェアを使ってわずか2時間のうちに100ギガバイト近いデータをコロニアルのネットワークから抜き取った。ランサムウェアは、データを暗号化してシステムを停止させ、金銭を要求するマルウェア(不正かつ有害に操作させるな意図で作成されたソフトウエアの総称)の一種である。翌日(7日)になってサイバー攻撃に気づいたコロニアルは、関連システムをオフラインに切り替え、すべての業務を一時的に停止した。