石油メジャーに「脱炭素」の圧力

 さらに国際エネルギー機関(IEA)が5月中旬に出したレポートも、原油価格が上昇するという観測を助長している。

 IEAは5月18日、2050年までに世界の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするための工程表を公表した。その主な内容は、(1)化石燃料関連の新規投資の決定を今年中に停止する、(2)2035年までにガソリン車の新車販売を停止する、(3)2040年までに石炭・石油発電所を廃止する、(4)2050年までにエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を約7割に引き上げる、などである。

 2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにすることは、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が定める「産業革命からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標と合致する。今年11月に英国で開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)を前に、IEAとしては具体的な道筋を示すことで「温暖化対策に後ろ向き」との批判をかわす狙いがあったのだろう。

 IEAの工程表の発表後、欧米の石油メジャーに対して「脱炭素」の圧力を強める動きが相次いでいる。米国ではエクソンモービルでは「物言う株主」が推薦した環境派3人が取締役に選任された。オランダではハーグ地方裁判所が英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに対して気候変動対策が不十分だとして、温暖化ガスの排出量を2030年までに19年比で45%削減することを命じる判決を下した。裁判所が企業に対し具体的な数値を求めて排出削減を求めるのは異例のことである。

 世界の原油供給で存在感を示すようになった米国の原油生産が停滞していることも気になるところである。2020年3月時点の米国の原油生産量は日量約1300万バレルを誇っていたが、その後コロナ禍で約200万バレル減少し、そのままの状態が続いている。

 米ダラス連邦銀行の調査によれば、シェールオイルの生産コストは高い地域でも平均で1バレル=30ドル台半ばであり、新規の油田開発が採算ラインに乗る原油価格が50ドル前後の地区が多い。現在の米WTI原油先物価格は1バレル=70ドル前後であることから、シェールオイルの生産が本格的に回復してもおかしくないが、そうならないのはシェール企業が掘削作業を抑制しているからである。調査会社ライスタッド・エナジーによれば、米国の独立系シェール企業の8割が、今年第1四半期の設備投資額を本業で稼いだ資金(営業キャッシュフロー)の範囲内に抑えている。過去のシェール・ブームでの投資負担が重く、コロナ禍でさらに赤字が増加したシェール企業は、財務内容の改善のために投資を抑制せざるを得ない。世界的な「脱炭素」機運の高まりも逆風となっており、今回のIEAのレポートがシェールオイルの生産に致命的な打撃を与える可能性がある。

 一方、OPECプラスは環境保護派からの圧力が少ないことから、世界の原油供給に占めるシェアが今後飛躍的に高まることが見込まれている。