首脳会談後、共同記者会見を行ったバイデン大統領と文在寅大統領(写真:AP/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 今回の米朝首脳会談は、対中戦略の中で韓国を中国から引き離し、日米韓協力の中に引きつけたい米国バイデン大統領と、バイデン大統領に北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談を実現してもらいたい文在寅大統領との「同床異夢」の会談だったと総括できるだろう。

異なる力点、生まれる温度差

「中央日報」は文大統領の訪米一週間前の時点で、韓国の元外務次官で駐日大使を務めた申ガク秀(シン・ガクス)氏の分析として、「日米韓協力で北朝鮮核問題の優先順位は従来よりも下がり、米国は対中政策の大きな枠組みの中で北朝鮮を扱おうとするだろう」との見通しを紹介した。

 実際、その見通しはズバリ的中したと言えるだろう。

 首脳会談が終わった直後に、日本の日テレNEWS24は元米政府高官の分析として、「これは取引だろう。アメリカは北朝鮮に“よりソフト”に。韓国は中国に“よりタフ”に。お互いが譲歩したということだ」との総括を紹介している。

 バイデン大統領は、対中国シフトの輪に韓国を近づける代わりに、文在寅大統領が望む北朝鮮政策では韓国に少しだけ譲った。互いに100点ではないだろうが、得るものがあった会談となったはずだ。

 そもそも今回の会談において米国と韓国とでは、力点を置く問題は異なっていた。そこからは当然のことながら、北朝鮮や中国問題に関し、米韓の間で温度差が生まれてくる。

 それでも今回の首脳会談によって、トランプ前大統領と文在寅大統領の不仲によって形骸化していた米韓同盟の再出発のきっかけになったと評価することはできるだろう。従来は中国が米韓間の離間を図ってきたが、今回は米国が中韓間の離間を図る結果となった。しかし、これが順調に機能していくかどうかは、中国の反応と、これに対する韓国の反応、またその前提として、今回明らかになった両首脳の温度差をどう埋め合わせしていくかにかかっている。ただ、その温度差が容易に解消できるレベルではないことも明らかだろう。