「ストイック」ではなく、「ちやほや」しよう
――がんに罹患すると、少しでもプラスになることをしようとインターネットで情報を探す人が多いですが、記事や体験談にはストイックな取り組みが多いなと感じます。
大津 確かに、がんの療養をしている患者さん本人も周りの人も、ストイックさを求める方が多い気がしますね。発信される情報や体験記などは「こんなにがんばりました」「その成果で今がある」という心情もあるでしょうし、「ストイックな闘病」はインパクトがあって、ウケもいいのでしょう。
しかし、実際には医学的な治療の効果も独自の取り組みも、行きつ戻りつで、良い状態になることもあれば、うまくいかないこともあります。
また経験談の多くは良くも悪くもバイアスがかかっていたり、抽出されたりしていることが多いものです。いい部分やできそうなことは参考にして取り入れてもいいですが、試してだめだったら、手を引いても修正しても大丈夫ですし、できない自分や患者さんを責めないようにして下さい。
――メディアには載らないところで、普段通りの食生活をし、甘いものを食べながら治療を受ける患者やサバイバーも多くいるわけですしね。
大津 標準治療を受けながら特別なことをせずに寛解に至ったサバイバーさんたちは多いはずですし、中にはギリギリのところから生還された人もおられるでしょう。世間の目はそういった患者やサバイバーさんに対して「じゃあ、大したことなかったんだね」となりがちですが、実際はそれぞれに苦労して、がんばって生きておられる人たちです。
ストイックな取り組みは「強く美しい療養や闘病」としてがんばっている、とても努力をしたという根拠にする表現なのかもしれません。けれども、くれぐれも「ストイックな食生活で切り抜けた人がいるのだから、自分もそうせねば」と思い詰めないようにしていただきたいです。
がんに全集中して闘うんだ! となってしまう方は多いですが、長続きできる生活のほうがいいので、私はストイックでない方がいいと思います。がんという病気を抱えながら生きている私はえらい、それだけですごいとご自分を褒めて、がんばれるように甘いものなど、好きなものを食べてご自分をいたわって下さい。
――患者さんは、もっと自分をちやほやして治療に取り組まれた方がいいのですね。
大津 食事も生活ももっと大目に見て、心地よいことを優先する方がいいと思いますよ。もちろん、患者さんの時期や状態にもよるので、医療者とよくコミュニケーションを取ってもらいたいです。食事など生活を支える家族や関係者も、時間が許せば診察に付き添って、一緒に話を聞いてもらえたらと思います。自分の感じることや疑問を伝え、共有することで、安心にもつながります。
治療は苦しまなければならないものではありません。緩和ケア医としては、つらいことはつらい、痛いものは痛いと言ってもらいたいです。今は、ごく初期のがんでも治療に入ったばかりでも、患者さんが感じる苦痛はできるだけ取り除いて治療を続けようという時代です。今はがんでない人も「がまんと忍耐は治療においては美徳ではない」と覚えておいていただきたいです。
(参考)
国立がん研究センター・がん情報サービス「食生活とがん」
https://ganjoho.jp/public/support/dietarylife/index.html
がん病態栄養専門管理栄養士
https://www.dietitian.or.jp/career/certifiedspecialist/cancer/