(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
英国のジョンソン首相とインドのモディ首相は5月4日にオンラインで会談、英国とインドで自由貿易協定(FTA)の締結を目指すことで合意に達した。2020年12月に両国の外相がすでにその旨で合意しており、今回の首脳間の合意はその確認という意味合いが強かった。両国は、今秋にでもFTAの締結に向けた交渉を正式に開始することになる。
2020年1月に欧州連合(EU)を離脱した英国は、その経済成長戦略の中核にインド太平洋諸国への接近を据えている。いわゆる「英連邦」(大英帝国のほぼ全ての旧領土の加盟国からなる政治連合)に属する国がインド太平洋諸国には多いからだ。今年2月、英国は環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟を申請したが、インドとのFTA交渉の開始の合意もこの流れの延長にある。
英国がインド太平洋諸国に接近しているもう一つの理由に、米中対立がある。英国のジョンソン首相は米国のトランプ前政権との間で英米関係の深化を図ろうとしていたが、双方の価値観が交錯する中で失敗に終わった。バイデン新政権との間で英米関係の深化の仕切り直しを図るうえで、英国は中国と距離をとる必要がある。
バイデン新政権の誕生で、米国は欧米を基軸とする多国間協調路線に回帰している。中国へ圧力をかける観点から、インド太平洋諸国との関係を重視するようにもなった。EU離脱後の経済成長戦略という観点のみならず、米国と歩調を合わせるというこれまでの外交戦略の観点からも英国はインド太平洋諸国との関係を重視せざるを得ない。