GAFAによる世界の支配
ここまで、SNSのプラットフォームを押さえることですべての情報を押さえられる巨大IT企業の強さ、逆に言えば、そうした企業を抱えていない国家の課題について述べてきました。その悲哀は今や、自国民の貴重なデータが勝手に利活用され、結果として国富が吸い取られていること、あるいは重要情報が意図的に漏らされてしまうことのリスクにとどまらず、関連のサービスや、社会の規範まで握られてしまうという状況にまで発展しています。
先日、日本のあるアプリ開発企業の方と意見交換していた際、こんなことを言われました。
「朝比奈さん、今や、何か開発する際に怖いのは、日本の当局以上にAppleですよ。特にPCではなく主にスマホを介してサービスを提供しているゲームの開発業者などは、Appleに止められたら『商売あがったり』です。日本社会の基準に照らして問題がない暴力や性の表現でも、彼らが『問題あり』と判断してサービス提供を止められてしまったら、全く抵抗できません。今や社会規範を実質的に作っているのは、日本政府や日本社会以上にAppleになりつつあります」
人気ゲーム「フォートナイト」を提供する英エピック社が、Appleがアプリ開発者に突き付けている同社の決済システム利用義務や30%の手数料を不当だとして戦っているニュース、あるいは政治行政の世界では特に有名なトランプ前大統領のアカウントをTwitter社が問題ありとして凍結してしまったニュースなどは仄聞して知っていました。大統領の影響力ですら、一企業が情報プラットフォームから遮断してしまうことで削ぐことができると世界に知らしめたのは確かです。ただ、しかし、ここまで様々な産業のサービスのあり方が、わが国のそれも含め、GAFAに代表されるプラットフォーマーと呼ばれるデジタル関連企業にガッチリと握られていることは、正しく理解できていませんでした。物凄い影響力です。
今や、社会規範のルール化についても、これまでの例えば立法府や行政府を中心とした審議や投票による明文化プロセスより、これらプラットフォーマーによる契約での縛りの方がより大きな意味を持ちつつあります。自戒を込めて言えば、世の中の「仕組み」を作り、動かしているのは政治行政だと本能的に感じてしまっていたという、ある種の思い上がりや誤解を反省するしかありません。
本来は、「データ漏洩を防ぐ」などと言うレベルを超えて、国家的には、いかにデータそのもの、あるいはその基盤となるプラットフォーマー企業を押さえるかということが大事なわけですが、日本の政治も行政も、そしてグローバルに奮闘する大企業も、こうした問題意識くらいは何となく持ってはいても、正直、ほとんど有効な手が打てておらず、主には手をこまねいて国富が減退するのを黙ってみているしかないのが実態と言えます。
かつて、例えば17~18世紀は「砂糖の戦略的国際商品化の時代」でした。正徳の治と呼ばれる時代に、江戸幕府の実質的に宰相とも言える立場で政治を担った新井白石は「毎年海外南地より砂糖の渡り来たり候事おひたゝしく候。もとより下直の物に候へとも、わが国の貨をその代として渡し候事も、年を積み候へはおひたゝしく、ついには六十余州通行の貨を滅し候事に候」と書き残しています。要するに、重要資源を海外勢に押さえられ、財貨が流出してしまうことを「日本中の通貨がなくなってしまう」と大げさとも言うべき言説で警戒しています。ある意味、事態を正しく恐れていたと言えます。
こうした危機感をもつ為政者を基本的には連綿と持つことのできた我が国は、その後の長い歴史の流れは割愛しますが、最終的には台湾を領有することなどにより、戦略商品たる砂糖を完全に抑え、むしろ輸出することに成功しました。
当時の砂糖が現代の「データ」だと考えると、ついには「六十余州通行のデータ」が流出してしまうのは容易です。果たして今からでも日本に「勝ち筋」はあるのでしょうか。私ならずとも、多くの日本人が危機感を感じるだけでなく、対応を考えなければならない課題です。