これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成19~24年:60~65歳

 36歳で社長に就任した時から、恭平は社長の定年は65歳と自ら定め、公言してきた。

 この公約を守るためには、周到な準備が必要であることも経験から学んできた。

 そもそも社長の評価は、在任中の業績だけで決まるものではなく、次期社長もしくは次々期社長時の業績をも合わせ、後世の人が決めるべきものと恭平は考えていた。

 つまり、仮に恭平が一定の評価を受けるとすれば、それは多分に先代社長である父親の功績にほかならない。

 一方、仮に在任中に多少の功績を上げたとしても、経営のバトンを渡した後に業績が悪化するようであれば、その責任の根源は前任社長にも在るはずである。

 このように考えていた恭平は60歳の誕生日を機に、5年後の株主総会において代表取締役社長の座を退くため7人の幹部社員を集め、以下のような決意表明を実行した。

「現時点において後継候補者は、この席にいる私以外の7人に絞られている。社長業を全うするには最低でも3期6年、できれば5期10年以上は務めていただきたい」

「崎谷純一副社長、本川修平専務は5年後の総会時には65歳、63歳となり、この条件から逸脱する。末永福雄部長は5年後には59歳と辛うじて条件をクリアしており、正確には私と副社長、専務を除く5人が、現時点において私の考える次期社長候補である」

「しかし5年後に順当に後継者が育っていない場合はこの限りではなく、外部からの招聘も考える」

「当然のことながら、5人の候補者には今後解決せねばならない課題が山積している。私自身のことは棚に上げ、各人に望むことを簡単に述べるので、素直に聞いて欲しい」

「末永部長は、エンゼルスとのパートナー・ビジネスにおけるデイリーメーカーの役割の正確な認識を深めること。さらには生産現場の仕組はもちろん、商品に関する知識や労務問題などについて、誰とでも丁々発止できるよう、しっかり勉強して欲しい」

「相原泰造工場長は、企業経営に大切なのは、まず使命感であることを認識して欲しい。当面の利益と同様に5年後、10年後の企業を担う社員の育成が必須である」

「強制して部下を動かすのでなく、自主的に考え行動できるよう個々を成長させるマインド・ワークと、自身の成長に欠かせないネットワークづくりで、殻を打ち破っての飛躍を期待する」

「尾上一弘工場長は、着眼大局、着手小局の理念を具体的に実践し、実績を積み上げて欲しい」

「いまだ確たる実績がないから自信がなく、仕事に迫力も粘りも感じられない」

「些細な事象の裏に潜んでいる本質的な要素を見極め、目的を見失うことなくベストの手段を探り、自分自身も組織も、一歩一歩確実にステップアップすれば、必ず自信がつくはずだ」