(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格は今年(2021年)3月に入りコロナ禍以前の水準に戻り(1バレル=60ドル台前半)、市場では強気ムードが優勢になりつつある。今回のコラムではその理由を述べてみたい。筆者の念頭にあるのは、(1)OPECとロシアなどの大産油国(OPECプラス)の減産合意の延長、(2)米国の原油市場の逼迫、(3)サウジアラビアの地政学リスクである。
「原油需要の急回復」というシナリオも
まず減産合意の延長についてだが、OPECプラスは3月4日、現在の協調減産の規模を4月まで1カ月延長することで合意した。サウジアラビア単独で実施されていた日量100万バレルの追加減産も1カ月延長されることになった。「原油価格はこのところ上昇基調にあるものの、新型コロナウイルス感染拡大による需要減からの回復はいまだ脆弱である」と考えるサウジアラビアがこの決定を主導したとされている。
思い起こせば、サウジアラビアは昨年3月にOPECプラスの枠組みを放棄し大増産に転じたことで、WTI原油価格を史上初めてマイナス圏に落ち込ませたのである。そのサウジアラビアが今年は一転して「原油価格が高騰することになっても減産を継続する」とのメッセージを発信した。日量100万バレル以上の供給増を予想していた市場では、WTI原油価格は1年2カ月ぶりの高値を付けた。
ここ数年、原油価格が上向けば米国のシェールオイルが増産する場合が多かったが、足元の米国での生産回復のペースは鈍いと言わざるを得ない。コロナ禍以前に日量1300万バレル強を誇っていた原油生産量は、原油価格の上昇にもかかわらず200万バレル以上落ち込んだままである。業績が悪化したシェール企業は中長期の採算を重視する姿勢を強めており、従来のように「価格が上がればすぐに増産する」という戦略は採りづらくなっているからだろう。