府警本部でも有名

 およねさんの日課は、近所で見かけた路上駐車の通報だった。

 とくに自宅から40メートルほどの距離にある、喫茶店周辺をいつも重点的にマークしており、クルマで来た客が路上駐車をすると、当該車両のナンバーを新聞の折り込みチラシの裏などに書き付けては、毎日のように数十台分の情報を署に持ち込んでくる。

 しかし、喫茶店の前の道路は道幅があり、通行を妨害しない短時間の駐車であれば交通違反キップを切ることはできない。それでも、およねさんは取り締まりを執拗に催促してくる。たまりかねた署の交通課は喫茶店に電話をかけ、客のクルマを移動するように促すことで対処していた。ところがそんな日々が続くと、今度は喫茶店側が怒り出す。警察からの度重なる要請は営業妨害だとして、署に苦情を申し立ててきたのだ。

 両者からの板挟みになってしまった署の交通課と地域課は困り果てていた。対応が少しでもおろそかになると、およねさんは署内の公衆電話を使って府警本部にクレームを入れるので、相手にしないわけにもいかない。あるとき、およねさんが公衆電話の受話器を持ちながら、1階のフロア全体に響き渡るような大声で、こんなことをわめいていた。

「ここの警察署はどないなってますの。『駐車違反の取り締まりをしてください』とお願いしにわざわざ来てるのに、話もろくに聞いてくれませんで!」

 そんなことがたびたびあり、およねさんは府警本部の通信指令室でも、ちょっとした有名人になっていたようだ。

 署の交通課では、およねさんのリストにある数十台もの車両をチェックして、違法駐車の状態が確認できれば、放置車両確認標章(駐車違反ステッカー)を違反車両に取り付け、ドライバーに警告をするようにしていた。