大阪府警の所轄警察署の鑑識係として約4000体の『変死体』と向き合ってきた著者・村上和郎氏は、「遺体は凶器と並ぶ証拠の要だ」と言う。しかし、「それだけに誤認検視のリスクを危惧している」とも……。今、検視現場で何が起こっているのか。日本の「死因究明制度」の問題点を長年取材してきた柳原三佳氏が話を聞いた。
(聞き手/ノンフィクション作家・柳原三佳)
いつ誰が「不条理な出来事」に巻き込まれるか分からない
柳原三佳(以下、柳原) 2020年11月に出版されたご著書『鑑識係の祈り―大阪府警「変死体」事件簿』(若葉文庫)をいっきに読ませていただきました。
村上和郎氏(以下、村上) ありがとうございます。
柳原 「殺人、事故、自殺。遺体の放つ死臭」「危険な死体描写」「衝撃の刑事鑑識ノンフィクション」・・・、オビにはそんなインパクトのあるコピーが数々並んでいましたが、まさにそのとおりで、非常にリアルな情景が描かれていました。収録されている事案はすべて実際に起こった出来事なのですよね。
村上 はい、すべて事実です。私は所轄の捜査部門(刑事や鑑識)として27年つとめ、振り返れば4000件にのぼる異状死の現場に臨場しました。本書はその中でも特に記憶に残った30の事件を、当時の新聞記事などを掘り起こし、故人のプライバシーに配慮しながらまとめたものです。
柳原 私たちは日々、さまざまな事件や事故の報道を目にしていますが、ご著書を読ませていただき、「人の死」には本当にいろいろなかたちがあることを痛感しました。そして、それぞれの現場には、村上さんのように所轄の鑑識係の方々がいち早く駆け付けておられるのだということ、またそのお仕事の内容も初めて具体的に知ることができました。
村上 私としても、この本を通して、警察官が毎日のように異状死の発生現場へ臨場しているのだということを、多くの方に知ってもらいたいという気持ちがありました。