連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第37回。ワクチン接種の判断基準の1つとなる副反応。その客観評価と、日本で過剰なまでに不安視される背景について、アメリカで安全性評価に携わる紙谷聡先生に讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が訊く。
今回もアメリカで新型コロナウイルスワクチンの臨床試験に携わっている紙谷聡先生にワクチンの「ホント」を伺います。前回(第36回)のテーマはワクチンの有効性でしたが、もう一方で皆さんが知りたいのは、そのリスクについてでしょう。
ワクチン接種後に生じた有害事象(ワクチンが原因ではないものも含めたあらゆる好ましくない症状)のうち、接種と因果関係があるものを副反応といいます。新型コロナワクチンでは、副反応はどの程度起こるのでしょうか。また、そのリスクをどう考えればいいのでしょうか。現在までにわかっている客観的なデータをもとに、ワクチンの安全性評価の専門家である紙谷先生に解説していただきます。
mRNAワクチンは「かなり安全」
讃井 日本で接種が予定されているワクチンについて、深刻な副反応はない、副反応の頻度も少ないという報告があります。一方で、たとえば「新しいワクチンは遺伝子に悪さをするのではないか」といった不安の声もあがっています。
紙谷 私が安全性評価に携わっているmRNAワクチンについて説明しますと、前回お話ししたように、mRNAワクチンは、新型コロナウイルスと同じトゲを作るための設計図(mRNA)を脂質の膜で包んで細胞の中に入れ、リボソームというタンパク製造工場に直接設計図を渡し、そこがトゲを作り出すという仕組みです。そのトゲで免疫をトレーニングすることで、実際に本物の新型コロナウイルスが来ても効率的に戦えるようになるわけです。
このmRNAは非常に不安定で、細胞内に入った後に数日以内に通常の処理システムによって解体されてしまいます。あえて脂質の膜で包むなどの工夫をしなければ、体の中ですぐになくなってしまうほどmRNAはか弱いんです。また、最も根本となる遺伝情報が記録されているDNAは細胞の中の核に格納されているのですが、mRNAはこの核の中には入ることができません。
讃井 つまり、mRNAは核の中には入れないので遺伝子を改変できないし、仕事を終えたらすぐに分解されてしまう。原理的に見れば、mRNAワクチンはかなり安全であろうと考えられるわけですね。