真っ青な青空とどこまでも続く青々とした牧草地。走り回る子どもたちの手には白い風船が揺れている。ところがそれを見た大人たちが激怒。村を巻き込む大騒動になってしまう。子どもたちの目には風船に見えるそれは、大人が使う避妊具だった。
風船の代わりにコンドーム
チベット映画の先駆者であるペマ・ツェテン監督の日本劇場初公開作『羊飼いと風船』。圧倒的に雄大な自然のもとで暮らす牧畜民の大家族を時にユーモアを交えながら、優しい視点で見守る。
冒頭の場面には思わず笑ってしまったが、実は私にもそんな気まずい家族の光景があったことが思い出される。
1992年の大みそか。家族4人がこたつに入り、NHK紅白歌合戦を見入っていた。その時、初登場の本木雅弘が白い風船を抱えて、登場した。いや、私には風船に見えた。しばしの沈黙のあと、大爆笑する妹。私は何が面白いのかわからず、「風船がどうかしたの?」と妹に尋ねた。その後の沈黙はさらに深いものとなってしまった。妹は高校生で私は大学生。親からしてみれば、高校生がコンドームを知っていることよりも、大学生がコンドームを知らないことの方がショックは大きかったことだろう。
知っていた方がいいこと、知らなくていいこと。
果たして、何も知らずに無邪気にコンドームで遊んでいた子どもたちはそれで幸せだったのだろうか。風船を買ってもらえない子どもたちが代用品として、遊んでしまったため、一家は避妊具を切らしてしまう。