個人の自由と公衆衛生が噛み合わなかった米国

──なぜ米国でここまで増えたと思いますか?

大内:パブリック・ヘルス(公衆衛生)のリーダーシップが足りず、決断が遅くなったということがあると思います。「どうしてこんなふうになってしまっているのだろう」とたくさんの医師が疑問に思っていました。病院に任せるのではなく、空港で感染が疑われる人を隔離したり、空港自体を閉鎖したりと、州や国レベルでできることはもっとあったはずです。

 米国には医療従事者も医療設備も十分にあるのに、そのような資源を十分に活用しきれなかったと今は感じます。日本では軽症者は隔離のためにホテルに入れたと聞きました。米国でもホテルはあの時期たくさん空いていましたが、軽症者を隔離する施設はありませんでした。

 ニューヨークのクイーンズやブルックリンでは感染拡大とともに治安が悪化し、医師が勤務先の病院にたどり着けなくなるということも起きました。医師として患者の治療に当たらなければならないが、自分や家族の安全が確保できず、病院に出勤できない医師が出たのです。やむを得ずニューヨークからマサチューセッツに避難してきた医師もいました。

 ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のあるマサチューセッツ州の場合は、すでにニューヨークの惨状を見ていましたし、知事が科学的根拠をもとに街の閉鎖など難しい判断を下していました。医療従事者の立場でいうと、できることはやっていたと思いますし、医療崩壊も起こりませんでした。しかし、州と国の連携がとれておらず、街を閉鎖している一方で空港が開いていました。

 米国には人種や文化、言語など多様なバックグラウンドを持つ人がいます。また、個人の意見や主張を尊重するカルチャーは米国の特徴ですが、そういった部分と、必要最低限の公衆衛生という部分が噛み合っていなかったという点もあったように思います。

 そもそも国の代表である大統領が「コロナなんて何でもない」「薬はあるから大丈夫」、マスクをしないなど科学的根拠のない、間違った情報を発信しましたから。社会的、経済的格差は医療格差にもつながるとても大きい問題ですが、国のリーダー自身が格差を理解していません。米国の医療従事者の一人として反感を覚えました。

 米国には他国から逃げてきている人もいて、6人で一部屋に住んでいるようなことも少なくありません。そういった家では、誰かが感染したとしても、なかなか隔離して暮らすことができません。また、貧困層は現場で働いていることが多く、そもそも感染リスクが高い。軽症者を隔離する施設がなく、言語のハンデもあって情報も行き届かず、感染が広がる悪循環になりました。

──日本でも3月、4月は医療崩壊のリスクが叫ばれました。日本についてはどのように感じていましたか?

大内:4月頃に日本の救急を担当している医療従事者に話を聞きました。次に運ばれてくる患者がコロナ感染者なのではないか、このままでは病院が壊れてしまうのではないか、と案じていました。この頃は一般の人と医療従事者の、ウィルス感染や医療崩壊に対する危機感の差が大きかったのではないでしょうか。