適切な医療を受ける機会が乏しい貧困層

──今の米国の状況はどうでしょうか。

大内:最近、救急部の医療従事者の中でコロナの感染者が出て、「やはり、全員がかかるまで終わらないのか」とがっかりしました。ただ、肌で感じる危機感が3、4月とはまったく違います。

患者と会話する大内氏

 今は、呼吸困難な患者の割合が圧倒的に少なく、酸素飽和濃度が落ちていない、入院も挿管も必要がない軽症の人が多いです。症状としては咳、発熱くらい。とはいえ、患者数はかなり増えているので、感染リスクは高くなっているし、楽観視できるのかというとそういうわけではありません。全体的な雰囲気としては緩んでいるかもしれない。医療従事者の感染リスク対策も、もう一度徹底しなければならないと思います。

──書籍の中では、米国の格差問題についても書かれています。医療従事者から見てどうなのでしょうか。

大内:ニューヨークのブルックリンやクイーンズのように、ボストンにも貧困層が住む地域があります。たくさんのコロナ感染者がその地域から病院に来ました。低所得者にはメディケイド(低所得者に対する公的医療保険制度)がありますが、不法移民は何もないので治療費を払うことができません。英語ができない人とはふだんは通訳者を介して話しているのですが、今は通訳者が病院に入ることができません。電話で患者と通訳者、私が会話しながら対応していますが、コミュニケーションが難しいと感じることもあります。

──米国は人種間で平均余命も違います。

大内:黒人の平均寿命が短いというデータがあります。ボストンという一つの街の中に、他の地域よりも平均寿命が20年も短い地域があります。食生活や経済事情、犯罪などが原因です。

 先週、29歳の黒人女性がうちの病院で亡くなりました。死因は喘息です。彼女はメディケイドを持っていたし、過去に治療も受けたという記録もありました。「なぜうちの娘が死ぬんだ」と、遺族が疑問を持って解剖もしましたが、やはり死因は喘息でした。

 日本では喘息で死亡するケースは減っていると思いますが、米国ではいまだにあります。黒人の低所得の人が喘息で亡くなることが少なくないという知識はありましたが、私が学生の頃から変わっていないのだな、と。実際に現場で目の当たりにすると落胆します。