(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
バイデン氏が米国大統領選挙に事実上当選してから、韓国の文在寅大統領の頭の中はますます北朝鮮のことで一杯になっている。米朝首脳会談を推進したトランプ氏と違い、バイデン氏が大統領になればオバマ時代の「戦略的忍耐」に戻ってしまうのではないか、それに業を煮やした北朝鮮が挑発行動に出てこれまでの成果を台無しにするのではないか、と懸念しているためだ。
そこで出てきた考えが「東京オリンピックを利用して、バイデン氏と金正恩氏を引き合わせようではないか、そのために日韓関係も良くしておこう」ということのようである。
そう考えると、日本を訪問して、菅総理に面会したのが、康京和外交部長官ではなく朴智元国家情報院長であったことも理解できる。
バイデン氏はトランプ氏のようにトップダウンで動くリーダーではなく、実務的な検討を土台に動くボトムアップ型の政治家だ。米朝会談を実現しようといってもトランプ氏のようにおだてれば出てくる人ではない。そう考えると、バイデン氏と金正恩氏を引き合わせるもっとも自然な機会が東京オリンピックということになるのであろう。
最近の動向を分析しながら、この説を考えて見たい。
日韓関係改善に舵を切ったのは「バイデン・金正恩会談」実現のため
朴智元(パク・チウォン)国家情報院長が8日緊急来日し、小渕総理・金大中大統領が発表した「日韓共同宣言――21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」に続く新たな首脳宣言で日韓関係を解決していこうと日本側に提案した。この提案については、前稿で紹介した。
しかし、その主たる目的が日韓関係の改善より、バイデン・金正恩会談実現にあるようだ。「朝鮮日報」によれば、10日に菅義偉総理と面会した際に朴智元氏は、「東京オリンピックの際に、南北と米日首脳が会い、北朝鮮の核問題や日本人拉致問題の解決策について議論する」という文在寅大統領の提案について説明した模様だという。