外交部長官をスルーして日本側に持ち掛けられた「文・菅共同宣言」の提案が、韓国情報機関のトップによってもたらされたという点にも注意が必要だ。

 通常、情報機関との接触は秘密裏に行われることが多い。ところが今回、朴智元国家情報院長は菅内閣の後ろ盾的存在であり、旧知の二階俊博自民党幹事長と会うのはまだしも、菅総理との面会の際には公然と官邸の正面入り口から入り、さらに会談後は記者団の質問に答え、会談の内容や雰囲気まで伝えるサービスまでしてみせた。

 こうした行動に日本側には警戒する声も上がっているが、その裏側にある意図を分析しておく必要がある。国家情報院は北朝鮮との対話の窓口でもある。そのトップが文大統領の特使として官邸を訪れたのだ。これは単なる「日韓関係改善」だけでなく、「北朝鮮対応」に関する提案を菅総理にするためだろう。

バイデン氏との認識の乖離目立った電話会談

 一方、文在寅大統領は、米国のバイデン次期大統領と12日に電話会談を行った。2人は米韓同盟の重要性を再確認し、早期に会談の機会を設けることで合意したという。しかし、文在寅氏とバイデン氏との間では米韓同盟と北朝鮮の核問題に関する認識の隔たりは大きかったようだ。

『文在寅の謀略―すべて見抜いた』(武藤正敏著、悟空出版)

 バイデン氏は「北朝鮮の核問題の解決」を強調したが、文在寅氏は「朝鮮半島の非核化」という表現を使った。この表現は、北朝鮮の核廃棄の条件として、米国の戦略資産と在韓米軍の撤退を要求する北朝鮮の「朝鮮半島の非核化」と同じではないかとの誤解を招きかねない。

 また、トランプ政権の対北朝鮮政策を肯定的に評価し、継承を決意した文在寅氏の発言もバイデン氏の考えとはかけ離れたものだったという。

 文在寅氏は、「朝鮮半島の問題において主導権を握るのはあくまでも韓国側だ」との立場である。そのためには米朝首脳会談を仲介して、リーダーシップを発揮しようとの意図がある。文在寅氏がバイデンに語った「朝鮮半島の非核化」という概念も、バイデン氏に北朝鮮の立場から迫ったもの、ということができるかもしれない。

 菅総理、バイデン次期大統領は文在寅大統領の意図をよくよく分析し、韓国、北朝鮮との関係で対応に当たることが肝要であろう。