「若年層が多い」「重症者は少ない」程度のことは、報道などで皆わかっている。問題は、そうはいっても、接触経路不明者が4割程度を占める中で、

・市中感染が今後急激に拡大する可能性をどう評価するのか、
・3月下旬に急拡大した局面とはどこがどう違うのか、
・新宿・池袋以外でどれぐらい広がりつつあるのか、

 など。こうした点の精緻な分析を専門家にしっかり説明してもらいたかった。

7月8日、国会は閉会中だが、コロナ対策の集中審査のために開かれた衆議院内閣委員会に出席した西村康稔担当大臣(左)と尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策分科会会長(写真:つのだよしお/アフロ)

 結論は「緊急事態宣言時ほどの心配はない」ということなのだろうし、それを特に疑うわけでもない。だが、分析内容を一定程度説明してもらわないと、正しく状況を理解し、何に注意すべきかを判断することもできない。

 説明不足は結果として、東京都は「他県への移動自粛を要請」、国は「制限不要」といった不整合も招き、都民・国民の混乱を深めていると思う。正しい認識を欠く混乱は、一方で過剰な自粛、他方で無謀な無対策、の両極をもたらしてしまう。

 対策決定を誰が担うのかも、混乱したままだ。

「了解いただいた」発言にみえる危うさ

 会見で尾身会長が対策提言の説明をしたことは、まあよい。決定前の段階だが、議論過程をオープンにするのは悪いことではない。次のステップで今度は西村大臣が、提言を受け、どう対策決定したのか説明すればよいことだ。

 それより気になったのは、会見の中で西村大臣が、7月10日からの県をまたぐ移動制限緩和や、東京都の感染対策につき、「(分科会に)了解いただいた」と説明したことだ。

 これは平時の審議会運営でのやり方だ。一般に政府の審議会では、最初のうちは委員に自由に意見を言ってもらい、ある段階で政府が方針を示し、最後は委員の了解をもらい“お墨付き”を得る。その際、一部委員から異論があると“お墨付き“にならないので、事前に根回ししてコンセンサスを作り、予定調和で運営する。こうして、誰も決定責任は負わず、「みんなで合意した」との体裁を作るのが日本政府の伝統的な決定方式だ。

 だが、緊急時には、この「予定調和コンセンサス」方式は機能しない。時間をかけてコンセンサス形成する余裕はないからだ。無理にこの方式で運営すれば、本来明らかにすべき大事な異論を封殺せざるを得なくなり、リスクを高めてしまう。だから、緊急時には、専門家はさまざまな意見を出し、政府がどれを採用するかを決断し、自らの責任で決定する、との分担にすべきなのだ。

「了解いただいた」発言は、言葉尻にみえるかもしれないが、基本的な役割分担の未整理を露呈してしまったように思う。