第二波にスムーズに対処するためにも、これまでの対応策の検証を
――安倍政権は「危機に強い」と言われてきました。そういう中でコロナ禍がありました。安倍政権のコロナ対応ですが、「日本は他の国に比べて死亡率が低いので上手く行っている」という評価もあるし、あるいは「対策を決定する過程が不透明だ」という批判もある。安倍政権のコロナ対策を、どう評価していますか。
石破 人口当たりの死亡率が低いのは、日本だけではありません。韓国、中国、そしてインドも低い。総じて、ヨーロッパが高くてアジアが低い、ということは数字として歴然としています。
安倍総理は、清潔好きで、秩序正しく、他人に対する思いやりがあって、医療現場は非常に頑張って、国民皆保険という制度があって…というのを「日本モデル」として称賛されました。辛い思いをした国民に総理からそのようなメッセージが出されたことは良いことだと思いますし、挙げられた要素もまた事実です。
でも、日本モデルとは程遠いインドでも人口当たりの死亡者数は欧州に比して少ない。その理由は何なのか。
つまり「われわれが行った日本モデルが効果を発揮した」だけでは、科学的な裏付けが十分ではないのです。なぜ日本では感染爆発が起こらず、医療崩壊も起こらず、致死率が低かったのか。そこをちゃんと検証せずに「日本モデルは素晴らしい」で終わらせてしまうと、事の本質を見誤りかねません。
むしろそれより明確にすべきだと思うのは、総理がはっきりと示された政策が達成されていないことの理由です。例えば、一人10万円の給付金が8月にならないともらえない、なんていう状況がなぜ生じているのか。「一世帯30万円の給付には時間がかかるから一人一律10万円」としたはずなのに、その原因が明らかになっていません。
PCR検査もそうです。総理ご自身が増やすと仰ったのに、全然増えていない。この原因についても明らかにならない。持続化給付金も、「アベノマスク」もそうです。国民も「なぜこんなに遅いのか」と感じているでしょうし、それ以上に総理のご指示をなぜ行政が迅速に実施しないのか、そこに危惧を感じます。
政府として、なぜ検査体制が進まないのか、なぜマスク配布や給付金が遅くなったのか、なぜ持続化給付金の手続きは煩雑なのかといったことについて、その理由も含めて明らかにしなければなりません。そうでなければ、第二波、第三波が来た時に、また同じことを繰り返しかねませんし、そもそもの行政の信頼性が損なわれてしまいます。
――そうした対策がスムーズにいかなかった原因を解明すると、政権の不手際が明らかになるので、解明に積極的にならないのではないですか。
石破 原因が現政権の不手際とは限りません。従来から引き継がれた構造的な問題だったということもあり得ます。ですからまずは、誰の責任かという話は置いておいて、どうしてこういうことになっちゃうのか、というところを解明しないと。
問題の所在を明確にするのは、国民のためであることはもちろんですが、政権のためにもなるはずです。特に、行政の長たる総理大臣が会見などで明確にされた指針が実行されていないのですから、どこかに不具合か怠慢か、何らかの原因があるはずで、これらを明らかにするのは、国家としての国民に対する責務です。その上で、責任を問うべき人がいるならば問われなきゃいけないし、構造的な問題があったということならば、そこを変えていけばいい。
そういう検証がなされないままだから、国民はみんなモヤモヤ、イライラしているんじゃないでしょうか。
――そういうモヤモヤ感はなかなか支持率に現れていないです。不思議な感じです。
石破 一定の支持率がある最大の理由は、「野党がひどいから」というものでしょうけど、野党がひどいから政権の支持率が高いっていうのは、あまり威張れた話ではないでしょうね。