6月4日、参議院厚生労働員会での安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 新型コロナウイルスの感染者や死者の数を国際比較すると、台湾のように見事な対応をした国を除けば、日本は世界でも優等生の部類に属する。しかし、日本国内では、安倍政権の対応に厳しい批判が集まっている。

 市中ではマスクの値崩れが起こっているほど供給が過剰になっているのに、アベノマスクがまだ届いていない地域が多々ある。10万円の現金も休業補償も支給が迅速ではなく、生活のため、自粛要請があっても営業しなければならない店が出てきている。それが、夜の歓楽街での感染者を増やし、「東京アラート」の発動となった。新型コロナウイルスの感染で命を落とすか、生活費が枯渇して命を絶つか——そんな究極の選択を国民に強いるのはあまりに酷である。

検察は威信回復のため、河井案里議員の捜査を徹底的に行う

 欧米をはじめ諸外国では、強力な都市封鎖を行った場合には、迅速に生活支援を行っている。それに比べれば、日本では緊急対策の意味がなく、旧来の日本的官僚システムの悪弊が露呈している。ボトッムアップで対応すれば、時間はかかるし、責任が明確ではない。政治の力で、トップダウンによる決定こそが必要なのであるが、ぬるま湯の中で長期政権を謳歌してきた安倍晋三首相は、そのような創造的リーダーシップを発揮することはなかった。積年の病弊であり、それが国民の不満と不安をかき立てている。

 そして、重用してきた東京高検の黒川弘務検事長の辞任である。検察庁法に違反してまで任期を延長させた本人が、外出自粛中の賭け麻雀報道で身を引くことになってしまった。検察内部の権力闘争を含め、週刊誌報道に至る真相は不明であるが、安倍政権に対する信頼性を大きく損ねたと言わざるをえない。

 稲田伸夫検事総長が勇退を拒否し、河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反事件の捜査を指揮しているが、国会閉幕後には夫妻の逮捕もあると見られている。参議院の広島選挙区には、現職の溝手顕正議員がいた。

 彼は、2007年の参議院選で自民党が敗退したとき、防災大臣として、安倍首相を「過去の人」とこき下ろした。私は、当時参議院自民党の政審会長であり、この選挙で苦戦したが、溝手候補の応援に広島まで行っている。

 選挙後、安倍首相は敗退の責任はとらずに続投し、私は年金記録問題に対応するため、安倍首相から厚労大臣に任命されたが、溝手は安倍批判が影響したのか防災相の再任はなかった。

 このような事情をよく知っているので、昨年の参議院選挙で、官邸が河井案里候補を擁立した理由がよく分かる。建前は、「広島県で自民党は二議席独占できる」というものだったが、実は岸田派の溝手を追い落とし、安倍側近の河井の妻を勝たせようという魂胆であった。