イラスト:近藤慎太郎

人間の集中力は起床後12~13時間が限界

 では、睡眠不足による実害にはどんなものがあるのか、具体的に見ていきましょう。

 ごく当たり前のことですが、睡眠不足であれば、日中の眠気により集中力が低下します。

 ある研究では、睡眠を約5.8時間に制限すると、制限せずに約8.6時間眠らせた場合に比べて眠気が増し、注意力が低下すると報告されています(1)。

まあこれは、わざわざ研究するまでもなく、自明のことかもしれませんが・・・。

 では、集中力はどれぐらい維持できるのでしょうか?

 私たちが十分に覚醒した状態で、何らかの作業を行うことが可能なのは、起床後12~13時間が限界で、15時間以上経過すると、「酒気帯び運転」と同じ程度の作業能率まで低下することが報告されています(2)。 

 そして一番問題なのは、注意力の低下が客観的なデータで示されている状態でも、自分自身では「注意力が低下している」と自覚できないケースが多いことです。つまり自分ではいつものように仕事をしているつもりでも、実はパフォーマンスは落ちており、ミスや事故などのリスクが時々刻々高まっている真っただ中にいるということです(3、4)。何の仕事をするにしても、この事実には留意しておく必要があります。

 仕事の生産性が落ちるだけであればまだいいですが、取引先を怒らせたり、何らかの事故を起こしたりすれば取り返しのつかない事態になります。実は、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故や1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号事故では、睡眠不足による眠気が事故に影響した可能性が指摘されています(5、6)。 

 日本でも、2012年に起きた「関越自動車道高速バス居眠り運転事故」を記憶している人も多いでしょう。運転手が居眠り運転をしたことにより、高速バスが高速道路の防音壁に正面衝突し、乗客7人が死亡、乗客乗員39人が重軽傷を負った事故です。非常にショッキングなニュースでした。そしてそこまでいかなくても、散発的な交通事故は毎日起こっています。

 医療についても同様です。非常に残念ですが、医療事故もやはりゼロにはなりません。