入院施設がある医療スタッフは、過酷な労働環境で働き続けています。ほとんどの医師が、当直明けでまた朝から普通に仕事が組まれています。看護師も、日勤と準夜勤、夜勤のシフトを、決して十分とはいえないスタッフの人数でやりくりしながらこなしています。

 当直明けの医師、連日のシフトワークで疲弊している看護師が、医療事故を起こしてしまうケースも十分考えられるでしょう。この医療の仕組みの問題点については、以前から指摘され続けてきていますが、医療スタッフを増やすことに慎重な意見も根強く、いまだに改善には至っていません。さすがにそろそろ抜本的に見直さないと、誰にとってもいい結果は生まないでしょう。 

 身の周りにいる人、バスやタクシーの運転手、みなさんを診察する医療スタッフの、誰がどんな問題を抱えていて、睡眠が十分とれているのかどうかといったことは、もちろん全く分かりません。私たちは、きちんと目を向けていないだけで、実は非常にリスクの高い世界で生きている、とも言えるのです。

睡眠不足は肥満やメタボの原因にも

 さて、睡眠不足がメンタルに及ぼす影響も侮れません。実験的に睡眠不足の状態をつくると、不安や抑うつ、被害妄想が生じたり(7)、感情調節力や建設的思考力、記憶能力などが低下すると報告されています(8)。

 特に、抑うつ状態から「うつ病」へと移行する問題が重要です。

 睡眠不足とうつ病には双方向性があり、睡眠不足が続けばうつ病になりえるし、うつ病の初期症状として睡眠障害が出てくることも非常に多い。

「どうもうまく眠れない」というだけならまだいいのですが、「やる気が出ない」「趣味に興味が持てなくなった」といったことがあれば、うつ病の可能性もあります。医療機関で相談する方がいいでしょう。

 うつ病には様々なタイプがあり、社会的にも非常に重要な問題にもなっているので、機会を改めてしっかり解説します。

 睡眠不足が集中力やメンタルに悪影響を及ぼすことは十分想像が可能だと思いますが、実は肥満や「メタボリックシンドローム(以下、メタボ)」の原因にもなりえます(9)。

 メタボというのは、「糖尿病」や「高血圧」「脂質異常症」などの生活習慣病が複合した状態で、全身の血管を劣化させ(「動脈硬化」と言います)、「脳卒中」や「心筋梗塞」の原因にもなりうる、非常に怖い病気です。

メタボリックシンドロームは脳卒中や心筋梗塞、認知症の原因にもなり得る(『ほんとは怖い健康診断のC・D判定』より)
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この問題に関しては、6月に発売された私の新刊『ほんとは怖い健康診断のC・D判定』でしっかり解説していますので、興味があればご参照ください。

 では、なぜ睡眠が不足するだけでそんな状況に陥ってしまうのでしょうか?これにはいくつかの理由が複合しています。