第4回と第5回の2回にわたって、睡眠障害を起こしうる2大原因について解説してきました。
体内時計のずれや過覚醒をきたしやすい現代人にとって、「良質の睡眠をとること」は、実に難しい問題だと感じます。
質だけでなく、量についても同様です。何歳になっても、自分にとって何時間の睡眠がベストなのか分からないという人も多いのではないでしょうか?
今回は、私たちにとっての適切な睡眠時間がどれぐらいなのかを見ていきましょう。
過去50年で1時間近く減少した睡眠時間
NHKが5年ごとに実施している『国民生活時間調査』によると、私たちの平日の睡眠時間は、1960年には平均8時間13分でした。結構長い、と感じた人も多いのではないでしょうか。
それが、2010年の時点で、平均7時間14分になっています。私たちの睡眠時間は、50年でなんと1時間近く減少しているのです。
ただしこの統計には注意点があります。
実は睡眠時間は加齢とともに短くなっていきます。
10歳代前半までは8時間以上、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、およそ20年ごとに30分ずつ短くなっていくのです(1)。
そして1960年と2010年を比べてみれば、少子高齢化で2010年の方が圧倒的に高齢者の割合が多くなっているので、全体の平均睡眠時間が短くなるのは当たり前なのかもしれません。
とはいえ、世界的に見ると日本は、韓国の次に睡眠時間が短いことが分かっています。「現代の日本人の睡眠時間が短い」というのは、概ね事実と捉えていいでしょう。
このコロナ禍のさなか、リモートワークを強いられているみなさんも、あらためて「最適なワークライフバランスとは何なのか」と考えずにはいられないことと思います。その中で睡眠をどう確保して位置付けるかも、実はとても重要な懸案事項なのです。
さて、睡眠時間の違いが、死亡率にどう影響するかを調べた興味深い報告があります。
これは、一般住民12万人を対象にして長期間行われた、非常に規模の大きい研究です。
一般的な日本人の生活習慣の違いが、がんや諸々の病気の発症に影響するかどうかを調べるという全国規模の研究で、文部科学省(当時文部省)の助成を受けて行われました。
生活習慣の違いとは、たとえばタバコやアルコール、コーヒー、緑茶、野菜などの摂取量、睡眠時間、果てはテレビの視聴時間までも考慮に入れて、それが病気のリスク因子になるかどうかを様々な観点から検討しています。
とても面白く、意義も大きいので、興味があればチェックしてみてください。
その成果の一つとして、睡眠時間と死亡率の関係について報告されています(2)。
睡眠時間の違いと死亡率の関係について、10年にわたって調べた結果、このような結果になりました。
つまり、男性でも女性でも、睡眠時間が7時間の人がもっとも死亡率が低く、それよりも長くなるにつれ、または短くなるにつれ、段階的に死亡率が増加していったのです。
驚くほどきれいなグラフで、理解しやすく、メッセージがダイレクトに伝わってきます。
このグラフは、人は何時間眠ればいいのかという話題になると、必ずと言って良いほどとりあげられるので、みなさんもどこかで見たことがあるのではないかと思います。
しかし、このグラフについては誤解が蔓延しています。どういうことなのか順を追って解説しましょう。