(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)
◎「ロックダウン論を斬る」バックナンバー
(1)「海外のロックダウン、死者数爆発でなぜ“成功”か」
(2)「日本の感染拡大の謎、現実とずれる専門家のモデル」
(3)「過剰反応で社会をぶち壊すロックダウンの本末転倒」
スペイン風邪とは異なる状況
神戸大学の感染症学の専門家である岩田健太郎教授によれば、「短期間に強いロックダウンを行って、その間は政府が全力で企業や国民に経済支援などを行う。これが一番、経済にとってはダメージが少ないはず」であるという。
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そうした主張を補強するものとして、「1918年のスペイン風邪に対応した米都市を比較したところ、当局が早期にまた強力に市民生活に介入した都市では結果として経済は悪化せず、パンデミックが終了した後にも力強く経済が拡大した」という趣旨で米連邦準備理事会(FRB)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の3人の研究者が3月26日に発表した論文が、日本のウェブメディアや5月3日放送の「池上彰の人類vs新型コロナ 緊急生解説」でも大きく取り上げられた。
しかし、スペイン風邪のインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは同じではない。死亡率が高い年齢層も違うし、コロナでは免疫形成が弱いと見られる点も異なる。神奈川県医師会の宮川政昭副会長が述べるように、「新しく未知の新型コロナウイルスには本当の専門家がおらず、本当は誰も理解していない。だから、過去の類似のウイルスの経験のみですべてを語ることは不適切」なのだ。
また、経済へのインパクトについても、1918年と2020年では実施されたロックダウンの破壊度、失業率、セーフティーネットのあり方、経済規模、産業構造、医療的アプローチも大きく違っている。そうした理由で、厳重な対コロナ・ロックダウンを行う州や都市で傷が浅く、自動的にV字型の急回復が見られるという単純な類推はできないのである。
家計の食費や家賃や住宅ローン、企業の給与や税金、固定費などの支払いなどは止めることができないが、ロックダウンによって収入は断たれるか、大幅に減る。これだけ多くの人や企業のバランスシートが、これだけひどく毀損すれば、従来通りに出費を行うことは不可能だ。こうして一度崩壊した需要やマネーの循環は、ちょっとやそっとでは呼び戻せない。
また、今回のロックダウンによる米国の経済崩壊は、「政府が国民に経済支援を行えばよい」などという簡単なレベルを、はるかに超えている。現実問題として、トランプ政権には全国民やすべての企業を救う能力も強固な意思もない。すでに連邦政府は、人々の生活や企業を支えるために数兆ドルという巨費を投じてはいるが、職や収入面で救済されない人が数千万の単位で出ている。その状況はロックダウン継続で悪化するのみだ。