2020年4月30日、ドイツ西部ミュンスターの駅で電車を降りるマスクをした女性。ドイツでは公共交通機関利用時のマスク着用が義務づけられている(写真:AP/アフロ)

(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)

◎「ロックダウン論を斬る」バックナンバー
(1)「海外のロックダウン、感染爆発でなぜ“成功”か

医療崩壊阻止では日本は失敗

「3密ユルユル国家」であるわが国は、ロックダウンの欠如にもかかわらず、コロナウイルスによる100万人当たりの感染死亡者を約3.4人(4月30日現在)と、極めて低く抑えることに成功している。だが、コロナ制御の成功のもう一つの基準である医療崩壊阻止の面では、必ずしも成功しているとは言えない。神戸大学の岩田健太郎教授が指摘するように、日本はオーバーシュート抑制には成功したが、患者数を大きく減らすことには失敗しているのである。

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 患者数が高止まりしたままで長期戦にもつれ込む中、指定病院だけでなく、市中病院や地域の診療所を含む救急・一般外来など非COVID-19の医療がひっ迫し、心筋梗塞や脳卒中、交通事故での大きなケガ、がん治療など本来なら助けられる、あるいは伸ばせる命に影響し始めている兆候が見られる。また、院内コロナ感染が各地で起こり、医療が完全に機能できない地域が増えていることは深く懸念される。さらに、収益の柱である通常の診療や手術が行えなくなった病院の経営が破綻し、地域医療を圧迫することも重大な懸念だ。

 そうした面で、感染を減らすために医療従事者が異口同音に「家に居てください、外出を控えてください、人と接触しないでください」と訴えかける現実は切実であり、国民一人ひとりや全ての企業・組織が重く受け止めるべきだろう。人口比の感染者死亡率で成功しても、医療が崩壊して国民全体が健康でいられなければ、その成功には意味がないからだ。

 また、ウイルスは勝手に足が生えて歩き出し次の人に感染するわけではないから、社会的距離・ロックダウン理論が正しいか否かにかかわらず、第2波が襲う現時点ではできるだけ人との接触を自粛するのが正解というのは異論がない。

 その上で、米疾病対策センター(CDC)が4月8日に、医療機関、食料品店や警察など市民生活に不可欠な組織の必須業務に従事する者に限って、社会活動の継続に支障が出ないように発出した規制緩和の基準は日本の参考になりそうだ。新型コロナウイルスの感染確認者と接触した人であっても2週間にわたる自宅待機を免除し、勤務を認めて必須業務要員の確保を狙う指針である。