「7時間睡眠」には明確な根拠はない

 まずこのグラフでは「7時間」と表記されていますが、実際は「6.5~7.4時間」に入る人です。

 当然のことではありますが、1時間の幅があるということです。7時間ピッタリがいいという意味では決してありません。以下、8時間は7.5~8.4時間・・・ということになります。

 そして、睡眠時間が違う人たちを10年間経過観察したところ、それぞれの死亡率はこうだったという「観測できた事実」を報告しているだけです。

 つまり、たとえば9時間睡眠の人を7時間睡眠にしたら、死亡率がこれだけ下がる、などといった話ではまったくありません。

 さらに、ちょっと立ち止まって考えると、「体調が悪い人がたくさん寝ているのじゃないか」「睡眠時間が短い人は、生活が苦しくて仕事をたくさん掛け持っているのでは」といった疑問も出てきます。

 そうであれば、睡眠時間が長い人、短い人の死亡率が高くても、まったくおかしくありません。

 ですので、何か重い病気にかかっていて、睡眠時間に影響が出ている人を除くため、調査開始時から2年以内に死亡した方を除き、さらにはうつ症状や、病歴、喫煙、飲酒などの影響も考慮して「再計算」すると、このグラフは以下のようになりました。

 どうでしょうか。その前のきれいな「U字カーブ」が消え、ずいぶん印象が変わったと思います。

 女性はいびつながらもU字と言えなくもないですが、5時間ではほとんど変わらなかった死亡率が、4時間になったとたんに2倍になることの説明がつきません。

 その一方で、男性の場合はなんと4時間の人の死亡率が一番低いのです。男性と女性で真逆の結果になってしまいました。

 全体的に、とても解釈しづらくなりました。

 おそらく、もっとも妥当な結論としては、「睡眠時間は個人差が大きい問題で、一貫した傾向は現時点では認められない」としか言えないでしょう。

 本来であれば、睡眠時間の話をするときには、この2番目のグラフまできちんと提示するべきなのですが、1番目のグラフがあまりにもキャッチーなので、それが独り歩きしている印象があります。

 もし1番目のグラフの結果を重要視するのであれば、本当は「男性は4時間睡眠にしなさい」と言わなければいけなくなるはずです(もちろん、そんなことはありません)。

 以上から、「7時間睡眠がいい」というのはそこまで根拠のある話ではない、ということです。

 それでは結局、その人の最適な睡眠時間は何時間なのでしょうか?

 残念ながら、これを解明することは至難の業です。

 その人にとって、1日7時間睡眠の人生と、8時間睡眠の人生はパラレルワールドなので、死亡率が変わるかどうかを比較検討することは現実的に不可能だからです。

 一つヒントになるのは、平日と土日の睡眠時間の差です。