選択するのがつらい時には「緩和ケア」を

――病院などで急に「最期をどうするか」という問題に直面すると、医師から数字や確率を並べて説明されることが多く、患者や家族は混乱することもあります。

大津 確かに医療側が提示するのは「Aさんの場合、胃ろうをすると10%くらいは食事ができるようになるかもしれないが、90%は食べられないままと想定されます。どうしますか?」といった、数字で表す問いになってしまいます。

 医師としては、医療に100%が存在しないため、いずれの可能性も説明するしかなく、また判断の基準にはその方の価値観にも左右されるので、どちらがいいと決めつけるわけにもいきません。

 なので最終的には患者さん本人が決めないといけないですし、患者さんの意思表示がなければ家族が決めなければならくなります。どちらも当事者で、その負担はとても大きいものです。

――選択するのがつらい時のサポートはあるのでしょうか。

大津 「早期からの緩和ケア」が相当すると思います。がんの場合であれば末期だけでなく、診断されたその時から緩和ケアを受けることを厚労省が第2期「がん対策推進基本計画」から推奨しています。

 患者さんやご家族は診断されただけでも精神的・心理的な苦痛を抱えることになりますし、心の負担でQOL(生活の質)は大きく下がってしまい、治療の選択もうまくできないかもしれません。それで、がんのステージに関わらず治療の早い段階で心の苦痛を和らげ、患者さんやご家族が病気にうまく対応するために様々な支援を行う「早期からの緩和ケア」が必要になります。そこでACP、意思決定支援、病気に対する理解を深めるサポートができます。

 直面する当事者は「早く決めないと死んでしまうのでは」と焦りますし、どの順番で決めていけばいいのか混乱します。「早期からの緩和ケア」で相談してもらえれば、状況の補足説明、心身の問題のマネジメント法や考え方の情報提供、早く決めるべきものや多少は保留してもいいものなど医学的な助言もできます。それらを通して十分考える時間を持てたら、もし残念な結果になったとしても悔いが違ってくると思います。

(参考:がん対策推進基本計画
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183313.html

大津秀一医師(撮影:URARA)

――本人や関係者が納得感を得ることができるわけですね。主治医を信頼していないわけじゃないけれど、医者-患者という関係性ではない「専門家の意見」を聞きたかったという話も聞きます。

大津 おそらく負担を分かちあってほしいという気持ちの一つで、選択するプロセスを共有してほしいということではないでしょうか。実際に私のクリニックでもその目的で受診される方がいらっしゃいますし、意思決定支援をするのは緩和ケアの役割のひとつです。私が診ている患者さんは、たいてい正しく合った判断をされていることが多いのですが、それでも一人で決めることが苦しいのですね。その時に専門家として「ばっちりですよ」と助言すると、自分の決断に自信をもって治療を受けるなど、安心して生きていくことができるのだろうと思います。

 緩和ケア自体が終末期のものというイメージが強いですし、辛い症状を和らげるだけの治療だと思われていますが、実際は治療の情報提供、病気の理解、選択することへの支援なども幅の広いケアで、患者さんをあらゆる手段でサポートするものですから、決められないで苦しい時にも利用していただきたいです。