新型コロナウイルスの猛威は世界中に広がり、ここ日本でもその脅威を抑えることは難しい局面になってきた。そんな中でイギリスでは緩和医療の専門家が「もしもの時について、いまこそ身近な人と話し合うべき」と呼びかけている。日本では厚生労働省が2018年から、人生の最終段階に至る時に自分が大切にしていることや生き方、どのような医療やケアを望んでいるかについて考え、家族など周りの信頼する人たち、関わっている医療者たちと話し合う「人生会議」(アドバンス・ケア・プランニング)を普及啓発している。
「もしもの時」に多く直面することになった今、「人生会議」をどう進めればいいのだろうか。多くの終末期患者の診療に携わってきた緩和ケア医で作家の大津秀一氏に、訊ねてみた。(聞き手・構成:坂元希美)
元気なうちから、誰もが「人生会議」したほうがよいのか
――「もしもの時」を考える必要があるのは高齢者や終末期の患者だけと思いがちですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって元気な人も、若い人もその現実を突きつけられています。通常なら避けたいこの話題をどのように進めればいいのでしょうか。
大津秀一(以下、大津) 「人生会議」の愛称で呼ばれるアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)の対象は、(1)健康成人、(2)病気の人、(3)終末期の人への3パターンと言われます。
通常、健康な段階でACPをすると、
・意向は曖昧で、その度に変わり、遠い未来に対する仮の選択になる
・不確実な判断であり、何をもたらすかわかっていない
・どんな選択をしたか覚えていない
・1-2年経つと違う選択をする
となってしまう可能性があるとされています。健康で何も問題がなければ、かえって予測される経過は山ほどありますから、そこに医師が入って様々にシミュレーションするのは非現実的ですし、あまりそういう話をしたくない方もいらっしゃるでしょう。ですから、私は(1)に関しては、家族間などの近しい関係者でいろいろと話し合っておくといいのではないか、という勧め方に留めています。
――では(2)の病気を持っている人の場合はどうでしょうか。ここには、持病を持っている高齢者も含まれることになるのでしょうか。
大津 病気といっても治るものであれば限りなく(1)に近くなります。(2)では治らない病気や進行性の病気が分かった時に、どうするのか、という話し合いになるでしょうね。そして、その時にかかっている病院の主治医が入るのが望ましいと思います。