高齢者と難しい病気になった時では、何が違う?

――たとえば、高齢者が病気はないが、だんだん弱って終わりが近いという感じる時はどうなるのでしょう。

大津 そういう場合はかかりつけ医と話すこともアリだと思いますが、入院した時がACPをする一つのタイミングになると思います。実際に、入退院を繰り返すような状態になった時に、今後の治療をどうするかというようなことを流れの中で話し合うことが多いです。

――入院の間だと、ACPを促すのは医師なのでしょうか。

大津 そうなりますね。入院中に生死に関わる状態になることが考えられる場合は、医師から話し合いを提案することになるでしょう。ただ、ご本人が参加できるかどうかは状態にもよりますので、必ずできるとは限りません。

 医療者が関わるACPでは、入退院を繰り返す中で本人が回復してきた時に「次回以降の治療はどうするか」「なにか希望はあるか」というようなことを医師の主導で本人と家族、病棟で関わる看護師も含めて話し合うというかたちが典型的だと思います。

――そういった話し合いはがんで余命が見えてきた時や、人工呼吸器や胃ろうの必要性が出てきそうな時に初めて必要になるものかと思っていました。

大津 高齢者のがんでも早期で治癒が見込める場合は、(2)ではなく(1)に近くなるので、病院でのACPは行われないかもしれません。やはり治るのが難しい、進行していく病態の時が医療者のかかわりが必要な(2)や(3)のACPになるでしょう。

 治療方針を話し合うということは、病院の中の流れとしてこれまでにも行われてきたことなので、それをACPとして認識している医療者はまだ多くないかもしれません。2007年に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を策定し、2018年の改訂で愛称「人生会議」が決まって普及啓発が始まったばかりなのです。

 これまでも医療現場ではAD(Advance Directive、事前指示)*1については気を配ってきました。しかし、事前にADを取っておくことが患者さんの終末期において生活の質をよくすることにあまり役に立っていなかったという研究結果がアメリカで出ています*2

大津秀一医師(撮影:URARA)

 医療者が患者の持っていた考え方や生き方を知らなかったり、ADを取ったのが最期のぎりぎりで、本人の意思を反映したと言えるのかどうか不明瞭だったりするのです。それで延命措置をするか否かだけではなく、どう過ごすのが本人の希望に沿えるのかを医師が考えたり、看護師が提案する。あるいは本人と話して「点滴はいいけど胃ろうはイヤだな」とか「人工呼吸器はいらない」というようなことがわかるように、医療行為を行う過程で患者さんの価値観を引き出し理解していくことが大事だという流れになってきたのです。

*1 AD(Advance Directive、事前指示) 患者あるいは健常人が将来判断能力を失った際に,自分自身に行われる医療行為に対する意向を前もって示すこと。ADは①医療行為に関して患者が医療者側に指示をする、②患者自身が判断できなくなった際の代理決定者を表明する、という2つの内容を含む。患者の指示はリビングウィル(living will)と呼ばれ、「将来意思決定能力がなくなったときに生命維持治療をしてほしいか、してほしくないかについて主治医や家族に知らせる指示書」と定義されている。

*2(参考)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7474243