高野山・壇上伽藍は空海が唐から帰国後に整備した高野山発祥の聖地。その南東部にある「蓮池(はすいけ)」祠には善女竜王と仏舎利が祀られる

 呪術とは、本来、対象者を呪うというだけではなく、大自然に遍満しているあらゆるエネルギーを、真言や儀式などによって自然から呼び集めて操作するものである。

 密教では、宇宙とそこに住まわれる神々の体系を曼荼羅で表現している。そして、その神々を降臨させるため、様々な儀礼を行い祈祷する。

 人間は自分の意志を表現しようとする場合、最初に用いるのは言葉である。

 古来より、インドでは呪文であるマントラ(真言)は神の言葉とされ、言説を超越した真理をあらわす。

 マントラは天の啓示を授かった特別な存在の僧侶、バラモンから伝えられた秘密の呪文という概念がある。

 その神聖な響きは、バラモン教やヒンドゥー教の司祭階級の僧侶から直接、正しい発音と抑揚を伝えられなければ効果が現れない。

両手の指を種々の形に組み合わせる印契は森羅万象における膨大な哲学が秘められている

 また、もしもマントラを伝授されても、その人がそれにふさわしいだけの力量がないと神秘の力は現れないとされる。

 マントラには神の言葉に宿るエネルギーにより災難を防ぎ、病を治すなど現世利益を求める人々の期待が集まった。

 また、悪魔・怨敵を下す調伏の呪法など、様々な状況に応じ膨大な種類と数のマントラが編み出されてきた。

 それを唱えることで実際に不思議な威力が現れ、願望が叶うと、その効果は広まり、人々の生活に深く根づいていった。