新型コロナウイルス感染症の対策として「免疫力を高める」ということがいわれている。「免疫力」はよく聞く言葉だが、学会で認められた概念とはいえず、定義にも曖昧だ。「これを食べれば、新型コロナウイルスに対する免疫力が高まる」といった、特化した食事法による特化した効果も、期待しないほうがよいだろう。
首相官邸「免疫力」の説明なし
首相官邸のサイト「新型コロナウイルス感染症に備えて」の「新型コロナウイルスに感染しないようにするために」という項目には、「手洗い」の次に「普段の健康管理」とあり、こう伝えている。
<普段から、十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけ、免疫力を高めておきます>
「免疫力を高めておきます」とあるが、このサイトでは「免疫力」とは何かは説明されていない。
政府の他の資料に当たってみると、厚生労働省が、新型コロナウイルス感染症より前に、別の医療事項について説明した文書で、こう記している。
<免疫力とは、人の体に本来備わっている自然治癒力で、体の中の自分とは異なる異物を認識し排除する力です>
よく、免疫は、人に本来備わっていて、異物を認識して排除する仕組みと説明される。この記述は、ほぼ「免疫」に「力」を加えただけにすぎない。
民間団体の「免疫力」の説明には「免疫力とは、『疫(病気)を免れる力』のこと」(健康長寿ネット)とあるが、こちらも「免疫」の字義を伝えて「力」を加えただけだ。
「免疫力」は、学会で日常的に使われる言葉ではない。日本免疫学会の科学コミュニケーション委員長を務める東京理科大学教授の久保允人氏も、取材記事で「免疫力という言葉自体が漠然としたものです。数値的な指標もありません」とコメントしている。