「国民食」というものに大衆文化の匂いを感じる。万人に親しまれる食になるまでに、無数の名もなき生活者がそれを作り、食べ、親しんでいく過程を経るからだ。
いつかどこかで誕生した食が国民食になっていく。その過程では、「レシピ」が大きな役割を果たす。多くの人がその料理を再現できれば、普及が早まるからだ。
そんな数々の日本の国民食が成立した経緯を、数々のレシピを読み解くことで考察する本が出た。「気配りのあるレシピ」が国民食の成立に寄与していることを感じさせる。
昔のレシピどおりに料理して実食
魚柄仁之助(うおつか・じんのすけ)著『国民食の履歴書』(青弓社刊)は、国民食とよばれるほど浸透している料理や調味料が、いつごろから食べられるようになり、どう変遷してきたかをたどる1冊。カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃがという、現在では定番中の定番の料理や調味料が、食文化研究家の著者に捌かれていく。
明治から昭和にかけての出版物の表紙とレシピがふんだんに載っており、それらの記述を考察の根拠としている。たとえば、日本の焼き餃子の歴史は、戦後、復員兵による露店売りで始まったとする説があるが、著者は1940(昭和15)年発行の『主婦之友』付録に「焼餃子の作り方」がすでに載っていることを明示し、「焼き餃子は戦前の日本の家庭料理に登場していた」と正す。定説と化している国民食の歴史が次々と覆されていく。
レシピに沿って、著者自身がその料理を作って食べ、感想を読者に伝える。これも本書の特徴だ。たとえば、1915(大正4)年発行の『家庭雑誌』に紹介された「カレー煮」をレシピ通りに再現し、「下ごしらえがいかにも昔の和食という感じ」「これが『うまい!』のでした」と述べ、当時の日本人がお吸い物とカレーを結びつけていたことを見出す。