日本の「国民食」誕生を支えた気配りのレシピ

『国民食の履歴書』で食の伝わり方を味わう

2020.02.21(Fri)漆原 次郎

 著者も触れているが、山田自身に焼き餃子を何度も作った経験、おそらくは焼き過ぎた経験があったからこそ、この「注意」を読者にどうしても伝えたかったのだろう。

 レシピとは、その料理を作ることのできる人が、これから作ろうとする人びとに伝えようとする手段である。思いやりや経験の滲むレシピには伝わってくるものがある。

気配りレシピは国民食に、曖昧レシピは郷土料理につながる

 記述が具体的で、誰もが料理できるような気配りレシピは、各家庭で同じような料理を多くもたらしただろうから、国民食の成立への貢献度は高いだろう。本書に登場する数々のレシピの中で、どれが貢献度が高いか比較するのも楽しい。

 一方で、大雑把な記述しかされていないレシピも、混ぜ方、煮方、焼き方さまざまになるため、結果的に料理の多様化には貢献しうるという考え方もある。江戸時代のレシピには分量や時間の表示がないものが多いが、逆にその曖昧さが、各家庭や地域での試行錯誤をもたらし、料理の地域性に結びついたとする研究者もいる。

 では、現代のレシピは、新たな国民食を生み出すだろうか。どのレシピもカラー写真豊富で記述は仔細。これまでにないほどの気配りがある。

 だが、同時に情報化時代を迎え、これまでないほどレシピの多様化も進んでいる。誰もが参考にするようなレシピが生じづらくなった中、メディア自体が「新・国民食宣言」などと謳って誘導する動きもある。さらに、食べたいものを何でも店で得られる時代にもなった。

 レシピを頼りにした数多くの手作りの経験を経て、万人に親しまれる食になっていく。そんな明治から昭和にかけて存在した「国民食の生まれ方」は、もはや過去のものなのかもしれない。

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