一流の人材が抜けたら成り立たない組織では世間で通用しない

 鉄道会社で、もっとも重要な仕事は何だろうか。飲料メーカーで、もっとも重要な仕事は何だろうか。私は、保線であり、品質管理だと考えている。

 鉄道会社では、高速で快適な新車両を開発する開発部門や、大きな電車を動かす運転手や、車掌さんが花形だ。けれど、鉄道会社の屋台骨を支えているのは、保線だ。誰もが寝静まった夜中、線路にゆがみがないか、小石が線路の上に乗っていないか、土台が崩れていないか、丁寧にチェックする。それによって、電車が脱線したりなどの事故が起きないようにしている。もし保線をおろそかにし、新車両の発表など、花形の目立つことばかり重視する人が鉄道会社のリーダーになったら、きっとその鉄道会社はいずれ大事故を起こし、会社全体の経営が傾くだろう。

 また、飲料メーカーの花形といえば、新商品のジュースを販売したりなど、目新しいものを作る開発部かもしれない。しかし会社の屋台骨を支えるのは、どんな商品にもハエ一匹、髪の毛一本でも入らないように注意する、品質管理の部門だ。もし品質管理をおろそかにし、新商品の開発ばかりにかまけていたら、その企業は異物混入問題を続出させ、会社が倒産しかねない。

*写真はイメージです

 保線も品質管理も、ほめられることがない。事故がないのが当たり前だからだ。なのにちょっとでも問題が起きると、真っ先に責任を問われ、責められるのがそうした部門だ。実に地味で、地道な仕事だ。黒子に徹し、縁の下の力持ちだ。縁の下にいるので、見えない。

 けれど。それらの会社を確かに支えている存在だ。こうした仕事は、一流ではないというのだろうか。もちろんこう問えば、「いや、そうした仕事も一流です」という言葉が返ってくるだろう。

 ただ、もうひとつ注意したいことがある。こうした保守や品質管理という仕事は、「一流」と呼ばれるスーパーマンにしかできない仕事では困る、ということだ。

 この人にしか線路のゆがみがわからない、なんてことになったら、その人が風邪を引いたら電車は脱線してしまうのだろうか? この人でないと異物混入は防げない、なんていうスーパーマンしかいない飲料メーカーのジュースは怖くて飲めやしない。

 そう。もちろん腕の確かさは必要だ。その仕事に必要な能力は求められる。だが、もっとも大事なのは、自分の仕事は地味かもしれないけれど、会社を、いや、社会を支える重要な仕事なのだ、という矜持(誇り)を抱くことだ。そうした誇りをもった人たちが、チームで仕事を進めていくことが求められる。保線も品質管理も、たった一人が抜けただけで仕事ができなくなるようではいけないからだ。誰かだけが一流になるのではなく、チームとしての力を発揮しなければならない。