小さくたたんで大きく開く、アンテナの仕組み

 一方、相談を受けた八坂氏は、どう思ったのか?

「最初は本当にこんなことやるのかな? と思いましたよ。しかもビジネスとしてやりたいというわけだから。でも、何が必要かと突き詰めると、衛星本体は今まで十分に実績がある。新しいのはアンテナだけ。アンテナなら『よし、まかせとき!』というわけです」(八坂氏)

 1970年代、八坂氏はNTT研究所で衛星用アンテナを担当。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を採用した軽量アンテナを技術開発し、日本初の通信衛星「さくら」に搭載され打ち上げられた。CFRPを宇宙で使ったのは初めて。つまり、日本の衛星用アンテナ開発のパイオニアなのである。

 小型SAR衛星用大型アンテナの研究開発はどう進められたのか。具体的には、1970年代以降、欧米で実例がある衛星用アンテナの考え方を応用しつつ、小さく収納し軽量化を実現するために研究を重ねた。「工夫したのは、リブ(骨組み)に安価で薄い板ばねを使ったこと。また、コンパクトに収納するため畳み方も独特です」(八坂氏)。モーターなど機械的な可動部がなく、ばね材をぐるぐる巻きつけることで、ひずみエネルギーを蓄え、その復元力だけでアンテナを開く。QPS研究所の特許技術だ。

 骨組みのばね材については、福岡県糸島市にある峰勝鋼機と試行錯誤を繰り返し、最終的に平板ばねを採用。薄い板を2枚合わせてサンドイッチ構造にし、その間に金属体を挟んで強くした。「骨組みをどういう貼り方にしたら綺麗にアンテナが開くか、100回以上展開実験をしました」(八坂氏)。

 さらにアンテナにしわが寄らないように、素材の金属メッシュをどう縫い合わせるかも課題だった。実験時は手縫いしていたが、どうしても皺がよる。アンテナの表面は1mmオーダーの精度が求められるのに、性能が満たせない。

 企業と議論を重ね、北部九州クラスターの中でも「円陣スペースエンジニアリングチーム(e-SET)」とよばれるグループが探してきたのが、高級車のシートを縫製するカネクラ加工(福岡県大川市)。立体的に縫製する知見があり、目標性能を見事にクリアした。

祖父と孫ほど年の離れた2人だが、小型SAR衛星にかける思いは変わらない。