「リアルタイム観測マップ」をどう実現するのか

大西俊輔氏は、九州大学大学院工学府航空宇宙工学専攻修了。佐賀県出身。学生時代に、八坂氏らの下で学び、全国で10以上の小型衛星開発に携わった。

 この連載では以前、世界が今「小型SAR衛星黎明期」にあり、欧米の企業が相次いで実証機を打ち上げたこと、日本のスタートアップ・シンスペクティブが「衛星からユーザの課題解決までワンストップサービス」を売りに参戦しようとする現状を紹介した。一方、QPS研究所は日本で初めて小型SAR衛星を打ち上げたことになる。

 日本初の小型SAR衛星「イザナギ」の特徴は?

「まずは1mの分解能で定常的にデータを取ることです。他社の衛星でも瞬間的に1m分解能のデータを取ることは可能です。しかし(他社衛星の場合)、基本の分解能は3mともう少し粗いため、1m分解能で撮影できる時間が短く、撮影した場合も充電して次の撮影までに時間がかかります。一方、我々は常に1mの分解能で撮影することを目標にしています」(大西氏)

 競合他社の衛星の分解能は概ね3m。なぜQPS研究所の衛星は常に分解能1mで撮影できるのか。そのカギは衛星のアンテナにある。

 そもそもSAR(合成開口レーダー)は地上に強い電波(マイクロ波)を発射し、地表から跳ね返ってきた電波を受信することで観測する。宇宙空間を通る強力な電波を出すことが求められ、大電力が必要だ。そのため小型軽量化が技術的に難しかった。

 だが、大きなアンテナがあれば電波を増幅することで出力が高まる。打ち上げ時には小さく収納したアンテナを、宇宙で大きく広げることができないか。『アンテナ開発の経験豊富な八坂氏×北部九州宇宙クラスターのモノづくり力』で、10kgと軽量ながら展開時直径3.6mもの大型アンテナ開発に成功。このアンテナがQPS衛星の最大の特徴であり「肝」である。

 もうひとつの売りは観測頻度だ。36機のコンステレーションが実現できれば、世界のどこでも約10分間隔で観測可能。他社衛星は1日1回~1時間1回の頻度が目標なのに、なぜ10分に1回もの観測頻度を目標とするのか?

「移動体の動きを見ることが強みと考えています。我々の衛星は1m分解能で地上を走る車が識別できますが、車の動きを捉えるなら1日に1回では意味がない。1時間に1回でギリギリ。できれば10分ごとの変化を見たい」(大西氏)