こんな会社に長くいてもそろそろ無理だ。スピンアウトして別のところで食べていこう・・・と出て行く社員が増え始める状態。

 これを人間の身体に当てはめると、がん細胞が新天地を求めて広く世界を旅する「がんの転移」と呼ばれる現象に当たるかと思います。

 言ってみれば、転移がんというのは細胞のベンチャーなんですね。そのスピンアウトを支えるルート作りは、実は金詰り、酸素欠乏が引き金を引いている。

 リスク管理のアンテナを張っていて、「やばそうだ」となると脱出する。ベンチャースピリットに富んだがんの転移を抑えるには、こうしたメカニズムを逆手に取って、疎外してやるのが有効ということになるでしょう。

「貧血やがん治療に応用」うんぬんとは、大まかにそういうことだと理解しています。

 そのメカニズムを、上記のようなタンパク質の合成・分解という動的な不均衡、ダイナミック・インスタビリティが支えている。

 細胞は窒息しても、むやみやたらに「藻掻いたり」はしない。淡々と調達ルートに相当する血管を作り始めるなど、冷静で迅速な対応に終始する。だから私達は生きていくことができる。

 20年ほど前、まだ親が生きていて介護をしていたとき、東京大学教養学部身体運動科学研究室の跡見順子先生に教えていただいた、分子シャペロンとプロテアソームの機序のお話を念頭に本稿を準備してみました。

 より新しい知見によって不正確になっている部分などありましたら、編集部までご教示いただけましたら幸いです。

 今年のノーベル賞解説の1本目をお届けしました。

(つづく)