現国会議員は4月の総選挙で新たに選出された新国会議員が招集される10月1日を控えその任期は9月30日で切れる。このためKPK改正法、刑法改正案と任期切れを前にした駆け込み審議・可決に対する国民の不満も背景にある。「なんで慌てて可決する必要があるのか、新しい議員による次期国会で審議すればいいだろう」と。
こうした不満に現議員は「任期一杯まで職責を全うしたい」と調子のいいことを表明して、マスコミの追及をかわしているのが実情だ。
強まるイスラム色に国内からも反発
今回の刑法改正案であるが、表向きはオランダ植民地時代の1918年制定の刑法を「現代にマッチした内容に変える」(ラオリ法務人権相)、「オランダ植民地のくびきからの解放」(刑法改正素案作成委員会でディポネゴロ大学の元法教授ムラディ委員長)などとその正当性が説明されていた。
一方「婚外者の同棲」に関しては「性的少数者(LGBT)」からも不安の声が上がっている。
男性同士、女性同士の同棲、同居については通報があれば刑法違反として処罰の対象になる可能性が指摘されているからだ。
「今回の刑法改正にはイスラム教の規範が色濃く反映されている」との指摘もあるように、世界4位のインドネシアの人口約2億6000万人の約88%を占めるイスラム教の影響が投影されているという。
現行刑法にも未婚者同棲や婚外性交、LGBTの存在や宿泊時の結婚証明書の提示拒否などが即座に犯罪になるとの規定は、厳格なイスラム教徒により「イスラム法(シャリア)」が施行されている北スマトラのアチェ州を除いて、インドネシアでは法律としては存在しない。
それが「イスラム教の規範により厳しい法改正にするべきだ」との保守系イスラム教団体などの要請を受けて、特にイスラム教徒のインドネシア人に対する処罰規定の厳罰化要求が法改正の背景にあるとされている。
こうした「イスラム教優先」は、他宗教の存在も認める「多様性の中の統一」を国是とするインドネシアでも近年顕著になりつつあり、非イスラム教徒に対する無言の圧力となっているとの指摘がでている。
問題先送りでは解決にならず
世論の強い反対にも関わらず議会で可決成立したKPK法改正法は議会主導で進められた法案であることから、ジョコ大統領は「伝家の宝刀」である拒否権を行使することをためらった。
しかし刑法改正案は政府の刑法改正素案作成委員会などが主導で進め、法務人権省の提案で進められた法案であることから、ジョコ大統領は国会関係者を大統領官邸に呼んで9月24日に予定されていた現国会での採決の次期国会への見送り、再検討を指示し、延期が決まった。土壇場でジョコ大統領が指導力を発揮した形となったのだ。
法務人権省や国会議員の中には「刑法改正案は可決成立してもその施行は2年後からでありまだ先である」との理由から早期の改正案可決を求める声も根強い。
しかし施行が2年後だからというのも、次期国会に採決を先送りというのも刑法改正案が内包する「人権侵害」「個人のプライバシー」の観点に立った根本的な解決策の論議につながるものではないといえる。
10月1日に新議員による国会議員の就任、10月20日のジョコ大統領の2期目の就任式、その前後に予定される新内閣の組閣と政治日程が目白押しの中で、国民の声や国際社会の注目を見極めながら刑法改正にいかに取り組むのかジョコ大統領には重い課題となっている。