こうした内外の懸念、特にオーストラリア人の心配に対して一番に声をあげたのが観光産業で成り立っているそのバリ島である。

 バリ観光協会イダ・バグース・アグン・パルタ会長は9月23日に記者会見して「外国人同士の場合は刑法417、419条に問われる心配は無用だ。なぜなら片方の親や子供、そして既婚者の場合は配偶者がバリに来て地元警察に訴えないとならないからだ」と説明して、既婚、未婚に関わらず外国人同士のカップルは問題ないとの見解を示した。

 法案推進者の1人でもあるヤソナ・ラオリ法務人権相も「刑法の適用を受けるのは警察に近親者から訴えがあった場合に限られるので外国人同士であれば罪に問われることはまずない」と外国人観光客の減少への影響を考慮して火消しに躍起となっている。

 では婚外性交や婚外同棲の一方がインドネシア人だった場合であるが、この場合はそのインドネシア人が既婚者だとこれまでは配偶者だけの通報に限定されていたが、新刑法ではさらに親と子供が警察に通報すればアウトになる可能性がある。インドネシア人が未婚者の場合も同様のリスクを負うことになる。たとえ金銭の授受が伴わない、つまり売春ではない場合でもだ(売春は当然のことだが罪である)。

 基本的にインドネシア刑法は、外交官特権を有する外交官など特別な例外を除いて外国人在住者はもちろん外国人観光客に対しても適用されることになっているのは、どこの国でも同じである。

議会の任期満了直前の駆け込み可決にも批判

 インドネシア国会は、9月17日に「国家汚職撲滅委員会(KPK)」の権限を実質的に弱体化するKPK法改正案を、国民の強い反対にも関わらず可決成立させてしまった。

 KPK法はインドネシアで最強の捜査機関とされるKPKが現職閣僚や国会議長、国会議員、地方自治体の首長、地方議会議員、司法関係者などを容赦なく汚職で摘発する組織であるため、議員の間から「権力に制限を設ける改正法案」が提案された。

 KPKに期待と信頼を寄せる国民から「改正法反対」の運動が高まる中、ジョコ大統領が条文の再検討を申し入れたにも関わらず、「脛(すね)に傷を持ったりやばい過去をもったりする議員ら」の思惑が一致したためか各政党の議員で一気に可決されてしまった。