役割を取り違えたバッド・コップ
むろん、ボルトン氏ほど外交経験豊かで国際問題に精通している政府高官はトランプ政権にはいない。
大統領も当初は、重宝していた。こと国際問題に関し、ボルトン氏が知らないことはなかった。
トランプ大統領に対する同氏のブリーフィングは理路整然としていたが、持論を振りかざした。やがて大統領にとって、タカ派的教理主義が耳障りになってくる。
事実関係だけを単純な言葉で端的に説明してほしい大統領はボルトン氏のブリーフィングを段々、遠ざけるようになる。
それでもボルトン氏を切れなかったのは、大統領にとってはまだ使いようがあったからだ。
『バニティ・フェアー』のT・A・フランク記者はそのあたりについて書いている。
「トランプ大統領は外交交渉でボルトン補佐官に『バッド・コップ』(Bad Cop=悪い警官)を演じてもらいたかった。むろん自分は『グッド・コップ』(Good Cop=良い警官)だ」
「『バッド・コップ』の役割は容疑者(交渉相手)に対し、敵意をむき出しにして脅すことにある。その後で登場する『グッド・コップ』は手のひらを返したように容疑者(交渉相手)を宥めすかして最終的には自供(妥協・譲歩)を引き出す」
「普通の『バッド・コップ』であれば、『グッド・コップ』により効果的な仕事をさせるのが役割だ」
「ところがボルトン氏は大統領の威を着て相手を脅し、怒鳴り散らし、相手を怒らせ、交渉は決裂状態になってしまうことがしばしばだった」
(https://www.vanityfair.com/news/2019/09/farewell-to-john-bolton)
まさに対北朝鮮との非核化交渉では、ボルトン氏はいわゆる『リビア方式』*1を唱えて、北朝鮮を怒らせてしまった。
*1=リビアのカダフィ政権が2003年米国などと行った非核化交渉で適用された方式。リビアが核兵器および関連施設を完全に放棄し、非核化を実現したうえで経済制裁を解除するというものもの。
トランプ大統領は、ボルトン更迭の理由の一つにその一件を持ち出した。
自分があれだけ一生懸命やってきた対北朝鮮交渉に水を差された恨みはいまも忘れられないのだろう。