ところで、なぜトランプはグリーンランドを買いたいと思ったのか。三つ理由がある。第一は、石油、ガス、金、貴金属、希土などの天然資源が豊富にあることである。第二は、軍事的・戦略的価値である。デンマークはNATO加盟国であり、アメリカはグリーンランドに米軍基地やレーダーサイトを設置している。第三は、北極圏の通商ルートが開発されれば、その拠点として飛躍的にビジネスチャンスが広がる。そのメリットに着目したのだ。

 先述したように、地球温暖化でグリーンランドの氷が溶けていくと、鉱物資源の開発も容易になるし、軍事基地の有効性も増すし、また北極圏の交流も盛んになる。そのような価値のある地をデンマークが売るはずはない。トランプがパリ協定から離脱したのは、単にオバマ政権の業績を否定したかったからであるが、地球温暖化がグリーンランドの不動産価格を引き上げることになるとは、皮肉な話である。

 因みに、不動産価格はどうであれ、1867年にアメリカはロシアからアラスカを720万ドルで購入したが、当時のロシア皇帝アレクサンドル2世は、後世のロシア人に批判されている。この歴史を、トランプも知っているのだろうか。

五輪開催が真夏なのはバスケのオフシーズンだから

 8月24〜25日には、フランスのビアリッツでG7首脳会議が開かれるが、地球温暖化対策などを巡ってアメリカと主催国フランスとの意見の隔たりが大きく、共同声明も出せそうにない状況である。とくに、パリ協定を主導したフランスにとっては、その協定から離脱し、アメリカ第一主義を唱えるトランプ政権に対する反感は強い。G7サミットのあり方も再検討すべき時期に来ているようである。

 トランプ政権とは違って、ヨーロッパでは、地球温暖化対策への取り組みが盛んで、「緑の党」のような環境保護政党が勢力を伸ばしている。また、CO2排出量が多いという理由で、飛行機には乗らないようにする運動が急速に広まっている。鉄道ならCO2排出量が30分の1になるとして、夜行列車の利用が拡大している。フランスでは、環境対策として航空券課税も検討されている。

 環境活動家として、スウェーデンの16歳の少女、グレタ・トゥーンベリが世界の注目を集めている。彼女は、地球温暖化対策の必要性を世界中に訴え、若者の間に運動の輪が広がっているが、9月にNYで開かれる国連気候サミットに出席のため、CO2を排出しないヨットで大西洋を横断中である。

ニューヨークで開かれる国連気候サミットに出席するため、イギリスからヨットで大西洋横断を試みる16歳の少女、グレタ・トゥーンベリ(写真:AP/アフロ)

 この猛暑は、来年の東京オリンピック・パラリンピックにも暗い影を投げかけている。私が都知事のときも、暑さ対策に努力したが、この2、3年の猛暑は、その当時には想像できなかったくらいに酷い。マラソンなどの競技時間を早めたり、ミスト発生装置を各所に設置したりと、東京都も組織委員会も様々な手を打っているが、焼け石に水といった感じになってしまっている。

 11日に東京五輪のオープンウォータースイミング(0WS)のテスト大会が行われたが、水温と水質が問題である。水温は上限が31℃であるが、この日は朝5時に29.9℃であった。水温は、上昇する前の早朝を選ぶことで解決できるが、水質はそうはいかない。大腸菌が問題であり、大雨が降ると下水処理場の処理能力を超えて、処理されない汚れた下水が直接海に注ぎ込んでしまう。これが大腸菌を大量に運んでくるのである。最近の夏の最大の問題は、猛暑に加えて集中豪雨に襲われることである。

 同じ日に行われたボートのテスト大会では、炎天下で10人の選手が体調不良になり、観客一人が熱中症になり手当を受けている。選手にも観客にも酷な気象条件である。

 最大限の努力をして、2020東京大会を成功させねばならないが、地球温暖化による異常気象は、オリンピック・パラリンピックの長期的課題も浮かび上がらせている。

 それは、第一に夏に開催することの是非である。1964年の東京大会は、秋10月の快適な気候であった。夏になったのは、IOCが開催費用捻出のため放映権収入に頼る構造となり、アメリカのTV局の意向に沿わねばならなくなったからである。バスケットボールなど視聴率の稼げるスポーツが夏はシーズンオフになるので、その放映のない季節を五輪用に選ばざるをえないのである。この商業主義を真剣に見直すときが来ているのではないか。

 第二に、真夏に開催するのなら、亜寒帯より寒い都市を開催地にし、気温と湿度を候補地選定の基準にすべきである。今年の暑さなら、ロンドンもベルリンも、そして2024年の開催地パリも競技環境としては相応しくない。スポーツと文化と平和の祭典であるべきオリンピック・パラリンピックが、健康を害するようなイベントとなっては本末転倒だからである。