お宝とは、2019年2月末の第1回着陸で得られた小惑星リュウグウの砂などの試料。科学者たちはその貴重な試料が地球に届く日を心待ちにしている。もちろん、はやぶさ2は科学機器を搭載しリュウグウで観測も行っているが、試料を持ち帰り地上の分析装置で調べて分かることも多い。だから2回目の着陸はせず、大切な宝を持ち帰るという選択肢もあった。
その一方、4月5日に「はやぶさ2」が作った人工クレーターは科学者を興奮させた。驚きのひとつは、黒いリュウグウのクレーター内部がさらに黒かったこと。黒い物質は有機物を豊富に含んでいる可能性がある。
「リュウグウは生命の材料物質に富んだ天体ではないだろうか」と、有機物分析が専門の薮田ひかる広島大学教授は期待する。有機物は太陽熱を受けると消失したり蒸発したりするので、地下物質の方が表面物質より有機分子の種類と量は増えると考えられる。はやぶさ2には有機物を観測できる機器は搭載されていない。つまり試料を持ち帰って初めて分析ができる。
「可能なら、ぜひ地下物質を採ってほしいと口うるさくお願いしてきました(笑)。その背景には、工学チームへの信頼があるからです」(薮田教授)
第2回着陸への期待と、万が一失敗してお宝を失うリスク。その両者の狭間ではやぶさ2チームは葛藤した。第1回着陸と同等かそれ以下のリスクで、第2回着陸が実施できるか徹底的に精査することとした。
まず第2回着陸の科学的・工学的意義を見直した。次に運用のリスクの見極め。着陸地点の岩の大きさ一つひとつを複数のチームが調べ、3次元地図も作成した。同時に探査機の状態を精査した。さらにありえないほどの不具合を想定し、シミュレーションを重ねた。第2回の着陸をすることで探査機にどんな影響があると考えられ、その結果、地球に帰ってこられないリスクがないかどうかも検討した。
これらすべてを冷静に評価した結果、第2回着陸を遂行できる技術力はあると判断。「挑戦しない選択肢はない」と津田プロマネは言い切った。
カメラの受光量低下はカバーできるか
リュウグウが今回、着陸を狙うのは、赤道付近の半径3.5mの地域。はやぶさ2が作った直径約10mの人工クレーターからは北に約20m離れているものの、クレーターからの噴出物が約1cmの厚さで積もっているとみられる場所だ。