米国は、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略遂行の初動である第1列島線への短期高烈度の戦いを跳ね除け、中国軍に勝つことを決心し、その対中戦略・作戦をほぼ完結させた模様である。
前回はその概要(1~3)を述べた。今回はその具体的な作戦(4~5)について解説する。
4 ASBと一体化する海洋圧迫戦略(MPS)
(1)統合された対中戦略の全体像
まず、ASBの完成の姿を、重複を厭わず総括すると次のようになるだろう。
ア ASBの変化
スタートラインとなるASBの原型は、主として海空軍の通常戦力による中国に対する攻撃で、中国を打倒するものであった。
しかしながら、緒戦においては、中国のミサイルなどの攻撃による被害を避けるために、海空軍はグアム以遠へ後退することが前提となっていた。
そのASBの原型ができた2010年からの10年間の変化では、次の3つが大きく影響したと考えられる。
○論争の結果、中国本土縦深への攻撃は、核戦争へ発展する恐れが高いことから、必ず実施するものではないとされたこと
○米海軍が、中国のA2/AD戦略に翻弄されずに、多数の長射程対艦ミサイルを装備して、積極的に中国艦隊を撃滅する「Distributed Lethality」という分散した態勢からの攻撃構想に転換したこと
○米陸軍が、地上戦主体のヨーロッパを戦場とする古典的な考え方から脱却して、統合作戦で積極的に船を沈める作戦に参画する決心をしたこと、そして、米海兵隊もこれに追随したこと
●その中でも、次のASBの3本柱は依然として不変である。
(1)拒否し防御する
対中国A2/ADネットワークの構築は同盟国任せ、米軍はグアム近辺からの「長距離作戦」また、「潜り込む不正規軍対処」すなわち海上民兵に支援された精強な軍を含むハイブリッド戦対処は同盟国などの国々の独立対処とされた
(2)長引かせ疲弊させる(経済封鎖)
(3)懲罰を科す(懲罰と言う意味は、中国の打撃の意図を相殺することが目的で、核戦争へのエスカレートに発展する恐れがある中国本土への攻撃の実施の敷居は極めて高い。)((2)と(3)の結果、「長期戦」へ)
この際、「水中の支配作戦」「盲目化作戦」(サイバーを含む電磁波の領域の作戦)「宇宙の作戦」は重要であり、米国の作戦の切り札と認識する必要がある。
水中の作戦は日米の一体化が進んでいるが、電磁波領域や宇宙に関しては、日本がある程度まで追いつかないと米国は明らかにしないだろう。