昨年末、新防衛計画の大綱および中期防衛力整備計画が策定され、新しい計画に従い防衛力の整備がスタートした。
宇宙・サイバー・電磁領域で優越を獲得することが死活的に重要だとし、新しい領域へ世界の流れに遅れることなく切り込んでいったことは大いに評価できる。
一方、従来の領域の考え方には進歩がなく、また、米中のドクトリンの変化にも追随せず、旧態依然たる第2次世界大戦の姿そのものである。
そのため、せっかく米国から高額装備を購入し、最新鋭の装備を取得していく計画なのに、その装備品が帰属するあてもなく大綱の中で漂っているように見えるのは残念だ。
その原因は、中国に対する曖昧な態度、防衛の基本たる作戦教義(ドクトリン)の不在、そして柱のない防衛力整備などにある。
また、新たな「防衛計画の大綱」に向けた有識者会議が、急速に厳しさを増す安全保障環境に対応するため「従来とは異なる速さで防衛力を強化する必要がある」と指摘していたにもかかわらず、我が国の防衛に必要十分な予算を投入せず、依然として財務省主導の防衛力整備になっていることに由来している。
1 脅威の認識とドクトリン
●中国に対する融和政策、敗北主義政策の撤回
米国は国家安全保障戦略(2017)、国家防衛戦略(国防戦略)(2018)で中国やロシアとの大国間競争に打ち勝つことが必要であり、中国、ロシアとは長期間の戦略的競争関係になることを明言している。
特に中国は地球規模で米国の主導的地位に取って代わろうとしていると警告している(中国は再三、米国はアジアから出て行けと主張)。
その指摘の通り、中国は、すでに第2列島線内で米軍に対抗する能力があり、2025年までにインド太平洋全域で米軍に対抗できる能力を構築すると明言している。
すなわち、日本は中国の軍事的影響下に孤立する恐れがあると言う警告でもあり、これに対し新「防衛計画の大綱」では、「安全保障上の強い懸念」を表明している。
しかし、昨年10月の訪中時、安倍晋三首相が、これからの日中関係の道しるべとして「競争から協調へ」を日中関係3原則の一つとして確認したことに、日本国内のみならず、米国からも懸念が示された。
今後、新防衛大綱との矛盾あるいは曖昧さを指摘されかねない恐れがある。
従って、日本は、米中間の覇権的対立が激化しつつある現実を踏まえ、傍観者ではなく、また、安全保障上の認識を曖昧にせずに、中国とは「戦略的競争関係」にあることを明確にしなければならない。
すなわち、中国に対して政治的配慮をしても、逆に日本や米国に対する軍事的覇権拡大のための時間を与えるだけであり、尖閣の領有、東・南シナ海の聖域化、台湾の支配を止めることはできないことを認識すべきだ。
また、日本と中国の戦略的競争関係は容易に「日本に対する軍事的脅威」に変わり、日本に対する軍事的脅威の本丸は明確に中国であることを強く認識すべきであろう。