1 朝鮮戦争前の戦略環境に逆戻りする東アジア
政府は、5年ぶりに「防衛計画の大綱(防衛大綱)」を見直し、今年末までに新防衛大綱を策定することになった。正しい判断だ。
北朝鮮に核装備を止める意思はなく、仮に米国がこれを阻止できなければ日本を敵と公言する北朝鮮の核の脅威が現実化することは間違いなかろう。
また、2020年から2030年にかけて、中国は海洋侵出を進展させるために、その足がかりとなる第一列島線上の日本や台湾などに対する直接的な軍事的圧力を強めるであろう。
したがってこの1年、我が国の防衛力の質量の強化に向けた決断と実行は死活的に重要である。
しかし、マスコミは米国や中国、あるいは、北朝鮮に関する細かい報道には熱心だが、専守防衛の足枷のままで日本は守れるのか、どうやって米国を巻き込みこの国を守るのか、そのために予算などの国家資源をどれだけ投入しなければならないか、など真の防衛論議に世論を導いているとは思えない。
一言で言えば、アドルフ・ヒトラーの台頭を許した英国の「宥和政策」と同じことをやっていないだろうか、との疑念である。
もちろん野党は、中国の習近平国家主席が軍隊に対して「戦争に勝て」と演説し、北朝鮮の金正恩委員長が「日本を火の海にして太平洋に沈めてやる」と言っても国内の些事が大事なようなので論外だ。
肝心な与党だが、最近中国を訪問した与党の幹部が、中国の「一帯一路」への日本の参加に含みを持たせたり、昨年10月の中国共産党大会で表明された「人類運命共同体」を理解できると述べたりしたことは驚きである。
昨年、筆者は中国を訪問し一流の学者や高級軍人と防衛について論議したが、その時、中国側は、米国は「覇道」であり中国は「王道」であるとし、米国はアジアから出て行けと強く主張していたことを思い出す。
筆者は、「確かに米国は覇権国家であるが、一方で米国は自由や民主主義、そして失敗を恐れぬチャレンジ精神などの夢を見させてくれている。中国は、米国はアジアから出ていけと言い、中華民族の復興と中国の繁栄ばかりを言うが、一体我々にどのような夢を見させてくれるのか」と問うた。
中国の答えたのは「運命共同体」であった。